週刊 奥の院 9.24

■ 週刊朝日編集部編 『忘れられない一冊』 朝日文庫 520円+税 
週刊朝日」連載。各界の著名人82人が本との出会いを語る。
 名前の50音順に構成しているので、トップバッターは官能作家・藍川京。いきなり〜!
 キスへの憎しみ 読むのが早すぎた一冊
 恋愛の話。中2の時、文学青年で兄とも慕う浪人生に告白され、キスされた。子どもができたら……不安に苛まれた。真剣にキスで妊娠すると思っていた。彼を憎んだ。その彼がプレゼントしてくれた本は、富島健夫『雪の記憶』。性の場面はラストだけ。主人公の男性、女性が拒むのにスカートのベルトを外す。
 彼のことがおぞましくなり、別れを告げた。
 いろいろな経験をして作家デビュー。富島の本よりハードなものを書くようになる。

……そのうち、憎いと思っていた人にも会いたくなった。彼は教師をしていた。笑顔の再会になった。四十年以上前に戴いた『雪の記憶』は、読むのが早すぎただけだった。……


 青山南 お粗末な書店と大雨 高校生で出会った二人の「作家」
 高校生の時に買った、ジョン・スタインベック怒りの葡萄』(全3冊、角川文庫)。表紙の絵がベン・シャーン。買った店は、通学路の途中の3軒の本屋の中でもっとも「お粗末な書店」。

……駅からも離れていればぜんぜんおしゃれでもない、自分の家のつかっていない部屋をふたつほどぶち抜いて発作的に本屋を始めたとしか思えないような、ちょっと薄汚れた、見るからにお粗末な書店。……たまにしか入らないのだが、いつ入っても、なにもないなあ、ここは、と生意気な感想しか出てこなかった。……実用書と全集とベストセラーと文庫が投げ出されるように置いてあるだけ。ホコリもかぶっている。信じられない。

 大雨で雨宿り。その店で出会った。

 初めてのジャケ買い。ていねいにカバーをかけて読んだ。
 感謝すべきは、あの信じられない本屋にか、とつぜんの大雨にか。


 なぎら健壱は小6の時古本屋で手に入れた『ああ無情』。同じ本をふらりと入った古本屋で発見して、手に取った。

 懐かしさに頁をめくり、文章と挿絵を眺めている時、ふと妙なことが思い出された。確かこの本には落丁があった。ページをめくる手が止まった。
「そ、そんな!」
……

 本の後ろ見返しを開くと、自分の名前のゴム印が押してあった。


 仕事を辞める決意をした本、性の目覚めの思い出、酒代に消えた本、夢の中の古本屋、などなど。


◇ うみふみ書店日記
 9月23日 月曜
 休みで、妻の実家の墓参り。夕方から店に。混んではいるが、土・日ほどでもなく。しばらくカウンター内に。
 今日もGFがいっぱい。
 写真集が品切れ寸前で、水曜日に再入荷予定。
 年配のお客さんが、「大変でしょうが、お体に気をつけて」と労ってくださる。


「朝日」9.22書評欄。
 旬子サマがカッパ・ブックスの時代』(新海均、河出ブックス)を紹介。
 ベストセラーを連発していた黄金期、不祥事、労働争議……、会社のドル箱は女性ファッション誌に移る。そのファッション誌出身の編集者が社長になり、大リストラ。カッパ・ブックス編集部は廃部。同編集部出身の著者の悔しさ。リストラ後、経営は広告収入で好転。

……会社が最後に守るべきものは何か。社名か、従業員か。「わからない」と並河元社長(ファッション誌出身)はつぶやく。社が作ってきた「本」という製品は、守るべき対象には入らないのか。聞いてみたくなった。


 同じく、コラム「本の舞台裏」(上野佳久)
 札幌のくすみ書房は、「なぜだ!? 売れない文庫フェア」や「中学生はこれを読め!」など個性的なフェアで知られる。
 経営難に直面。
「苦しい時こそ、本屋の原点に返って棚を充実させたい」と、新しい本棚づくりのための資金300万円をネットで募る。
クラウド・ファンディング」という仕組みで、3000円から30万円まで選べ、金額に応じてプレゼント。9月28日午後8時締切で、目標額300万円に届いた場合のみ、クレジットカード決済。
 くすみ書房は今春も廃業危機になり、年会費1万円の「友の会」会員を募集し、400人が集まり乗り切った。
 今年の「中学生は〜」フェアは選書に中学生も参加する予定だったが、経営難でストップしている。
 代表の言葉。
 何としても中学生と一緒にリストを完成させたい。できることは何でもやる。

(平野)

週刊 奥の院 9.24

■ 週刊朝日編集部編 『忘れられない一冊』 朝日文庫 520円+税 
週刊朝日」連載。各界の著名人82人が本との出会いを語る。
 名前の50音順に構成しているので、トップバッターは官能作家・藍川京。いきなり〜!
 キスへの憎しみ 読むのが早すぎた一冊
 恋愛の話。中2の時、文学青年で兄とも慕う浪人生に告白され、キスされた。子どもができたら……不安に苛まれた。真剣にキスで妊娠すると思っていた。彼を憎んだ。その彼がプレゼントしてくれた本は、富島健夫『雪の記憶』。性の場面はラストだけ。主人公の男性、女性が拒むのにスカートのベルトを外す。
 彼のことがおぞましくなり、別れを告げた。
 いろいろな経験をして作家デビュー。富島の本よりハードなものを書くようになる。

……そのうち、憎いと思っていた人にも会いたくなった。彼は教師をしていた。笑顔の再会になった。四十年以上前に戴いた『雪の記憶』は、読むのが早すぎただけだった。……


 青山南 お粗末な書店と大雨 高校生で出会った二人の「作家」
 高校生の時に買った、ジョン・スタインベック怒りの葡萄』(全3冊、角川文庫)。表紙の絵がベン・シャーン。買った店は、通学路の途中の3軒の本屋の中でもっとも「お粗末な書店」。

……駅からも離れていればぜんぜんおしゃれでもない、自分の家のつかっていない部屋をふたつほどぶち抜いて発作的に本屋を始めたとしか思えないような、ちょっと薄汚れた、見るからにお粗末な書店。……たまにしか入らないのだが、いつ入っても、なにもないなあ、ここは、と生意気な感想しか出てこなかった。……実用書と全集とベストセラーと文庫が投げ出されるように置いてあるだけ。ホコリもかぶっている。信じられない。

 大雨で雨宿り。その店で出会った。

 初めてのジャケ買い。ていねいにカバーをかけて読んだ。
 感謝すべきは、あの信じられない本屋にか、とつぜんの大雨にか。


 なぎら健壱は小6の時古本屋で手に入れた『ああ無情』。同じ本をふらりと入った古本屋で発見して、手に取った。

 懐かしさに頁をめくり、文章と挿絵を眺めている時、ふと妙なことが思い出された。確かこの本には落丁があった。ページをめくる手が止まった。
「そ、そんな!」
……

 本の後ろ見返しを開くと、自分の名前のゴム印が押してあった。


 仕事を辞める決意をした本、性の目覚めの思い出、酒代に消えた本、夢の中の古本屋、などなど。


◇ うみふみ書店日記
 9月23日 月曜
 休みで、妻の実家の墓参り。夕方から店に。混んではいるが、土・日ほどでもなく。しばらくカウンター内に。
 今日もGFがいっぱい。
 写真集が品切れ寸前で、水曜日に再入荷予定。
 年配のお客さんが、「大変でしょうが、お体に気をつけて」と労ってくださる。


「朝日」9.22書評欄。
 旬子サマがカッパ・ブックスの時代』(新海均、河出ブックス)を紹介。
 ベストセラーを連発していた黄金期、不祥事、労働争議……、会社のドル箱は女性ファッション誌に移る。そのファッション誌出身の編集者が社長になり、大リストラ。カッパ・ブックス編集部は廃部。同編集部出身の著者の悔しさ。リストラ後、経営は広告収入で好転。

……会社が最後に守るべきものは何か。社名か、従業員か。「わからない」と並河元社長(ファッション誌出身)はつぶやく。社が作ってきた「本」という製品は、守るべき対象には入らないのか。聞いてみたくなった。


 同じく、コラム「本の舞台裏」(上野佳久)
 札幌のくすみ書房は、「なぜだ!? 売れない文庫フェア」や「中学生はこれを読め!」など個性的なフェアで知られる。
 経営難に直面。
「苦しい時こそ、本屋の原点に返って棚を充実させたい」と、新しい本棚づくりのための資金300万円をネットで募る。
クラウド・ファンディング」という仕組みで、3000円から30万円まで選べ、金額に応じてプレゼント。9月28日午後8時締切で、目標額300万円に届いた場合のみ、クレジットカード決済。
 くすみ書房は今春も廃業危機になり、年会費1万円の「友の会」会員を募集し、400人が集まり乗り切った。
 今年の「中学生は〜」フェアは選書に中学生も参加する予定だったが、経営難でストップしている。
 代表の言葉。
 何としても中学生と一緒にリストを完成させたい。できることは何でもやる。

(平野)

週刊 奥の院 9.23

■ 広瀬洋一 『西荻窪の古本屋さん 音羽館の日々と仕事』 本の雑誌社 1500円+税 
 この本も【海】閉店に間に合ってよかった。
 とは言っても行ったことも、お会いしたこともないのです。
 広瀬は1965年神奈川県生まれ。東京・町田の「高原書店」勤務ののち、2000年に独立。夫人と二人の青年といっしょ。
 トレードマークのイラストは夫人の肖像、かわいい! すぐにGF登録したい。一見、「女子の古本屋」さん。
(帯) 誰が行ってもあそこには必ず好きな棚がある――穂村弘
 店名の由来?

……時折聞かれることがありますし、雑誌の取材などで質問されることもあります。その度に私はなにやらモゴモゴ答える羽目になるのですが、どうもスッキリ答えられたためしがない。音楽が好きなので、「音」の一文字を入れたかったという、ボンヤリとした思いはあります。(ハッキリ決めていたわけではなく、「羽」は、「館」はと聞かれたら困る)……「おとわかん」と発音した時の具合がなかなか悪くないじゃないか、だいたいそんな感じです。
(同業者にたずねたが、皆、いい加減。「なんか語呂がいい」「特に意味なし」がザラ。「思い出せない」というツワモノも。宮沢賢治の「ポランの広場」から取った「ポラン書房」は「ちゃらんぽらん」とうそぶく。「畸人堂」は「畸人変人」、「書肆ひぐらし」は「その日暮らしだから」……)
 ちょっと待てよ、みんな自虐的すぎないかって気もしますけど(笑)、まあ、深い意味はないと思ったほうがいいかもしれません。

「女子に古本力が付いたのではなく、おじさんに女子力が付いた」より。

……本の好きな人の中で「いい本」とか「いい本屋」って表現が出る時は、文芸書の貴重な絶版本だとか、人文書が充実している本屋のイメージがあると思います。ほんとうはそのあたりはたくさんある本の中の一部に過ぎないのですが、男性のお客さんの中にはその意識は根強い。……
人文書では、映画、フランス文学中心の海外文学、現代思想が三本柱らしい。硬派。最近の「女子棚」について)
……あまり女子、女子って言って棚を作っていると、まるで「女の人はこういうのが好きなんでしょ?」と見下しているように思われるかもしれませんがぜんぜんそういうことではなくて、売れていくもの、人気のある本の傾向がハッキリある、ということなんです。(「女子棚」の2〜3割は男性客とか)
 古本というのは長いあいだ男の趣味、中でも中高年男性の世界と思われていたのが、この10年ほどでずいぶん変わりました。女性が当たり前のように古本屋に来るようになっていて、だから今はもはや、女性に古本力が付いたんじゃなくて、男にようやく女子力が付いた時代といえるかもしれません。その場合の「女子」というのは、必ずしも男性/女性という性別のことではなく、またジェンダーともちょっと違って、装丁とかデザイン、モノとしての本の価値をもっとちゃんと見ましょう、ということだったり、あとは実用書や絵本なども含めて、もっと視野を広く持って、いろいろ本を楽しめるんじゃないか、今までとは違ういろいろな向き合い方が実は本にはあるんじゃないかって、そういうことをあまり声高ではない仕方で、さりげなく気づいたり、大事にしていたりする人が増えていて、そういう人たちに気にしてもらえる棚を作ることが、いま、古本屋にとってかなり重要なことになってきていると思うんですね。

 90年代後半、独立前、まだ無名だった岡崎武志を招いて有志で勉強会。岡崎の「これからの古本屋は、店がきれいで、入りやすくなきゃいけない」という発言に、参加者は「それではブックオフ」と反論。広瀬だけが岡崎の意見に賛成を表明。岡崎はその言葉に救われた。以下、岡崎の話。

 目録も販売会もネット販売もほとんどやらない音羽館は店売りがすべてで、そこに置かれた本は本当に川上から川下まで、水がスイスイ流れていくイメージですね。
(2000年代以降、古本屋の良いモデルになっている)
 もしこの先、音羽館が危うくなるようだったら、それはすなわち個人経営の古本屋はもう全部ダメなんじゃないかって、ほんと、それくらいの店だと……。


◇ うみふみ書店日記 
 

 9月22日 日曜
 ♪今日も朝から一日中〜♪ 忙しい。ブックカバーはないし、両替金は足らないし。こんなこと、お上はわからん。  
 朝一でお土産が「空犬さん」付きで来店。また、逆。ありがとうございます。
 そんでね、【海】にたくさんの皆さんに来ていただけることが私たちには今ひとつ理解できていないんです。ひょっとして、「聖地」?
 GFたちもいっぱいご来店。もう握手に写真に、……抱擁は未だないです。ドサクサでセーラ編集長とも握手。
 忙しくても楽しんでいるおっさん。苦労は他のスタッフたち。
 やはり書店関係者がご来店のよう。ほんまに名乗ってよね!
 

神戸新聞」書評欄で、郄田郁さんが『海文堂書店の8月7日と8月17日』を紹介してくださった。

神戸元町海文堂書店は在る。今日、この日、確かに在る。......
写真集に収められた一葉、一葉を慈しみ、撫でさすりながら、私は思う。神戸元町には海文堂は必要だ、本を愛する全てのひとのために、海文堂書店は必要なのだ、と。時代の流れを止めることも、決定を覆すことも出来ないけれど、せめて、記憶に刻んでほしい。元町のあの場所に、確かに海文堂は在る。今、在る。そして10月より先には、この書店を愛してやまないひとびとの、それぞれの胸の中に永遠に在り続ける。

 写真集、たくさんの方にお買いいただいています。ありがとうございます。

(平野)

週刊 奥の院 9.23

■ 広瀬洋一 『西荻窪の古本屋さん 音羽館の日々と仕事』 本の雑誌社 1500円+税 
 この本も【海】閉店に間に合ってよかった。
 とは言っても行ったことも、お会いしたこともないのです。
 広瀬は1965年神奈川県生まれ。東京・町田の「高原書店」勤務ののち、2000年に独立。夫人と二人の青年といっしょ。
 トレードマークのイラストは夫人の肖像、かわいい! すぐにGF登録したい。一見、「女子の古本屋」さん。
(帯) 誰が行ってもあそこには必ず好きな棚がある――穂村弘
 店名の由来?

……時折聞かれることがありますし、雑誌の取材などで質問されることもあります。その度に私はなにやらモゴモゴ答える羽目になるのですが、どうもスッキリ答えられたためしがない。音楽が好きなので、「音」の一文字を入れたかったという、ボンヤリとした思いはあります。(ハッキリ決めていたわけではなく、「羽」は、「館」はと聞かれたら困る)……「おとわかん」と発音した時の具合がなかなか悪くないじゃないか、だいたいそんな感じです。
(同業者にたずねたが、皆、いい加減。「なんか語呂がいい」「特に意味なし」がザラ。「思い出せない」というツワモノも。宮沢賢治の「ポランの広場」から取った「ポラン書房」は「ちゃらんぽらん」とうそぶく。「畸人堂」は「畸人変人」、「書肆ひぐらし」は「その日暮らしだから」……)
 ちょっと待てよ、みんな自虐的すぎないかって気もしますけど(笑)、まあ、深い意味はないと思ったほうがいいかもしれません。

「女子に古本力が付いたのではなく、おじさんに女子力が付いた」より。

……本の好きな人の中で「いい本」とか「いい本屋」って表現が出る時は、文芸書の貴重な絶版本だとか、人文書が充実している本屋のイメージがあると思います。ほんとうはそのあたりはたくさんある本の中の一部に過ぎないのですが、男性のお客さんの中にはその意識は根強い。……
人文書では、映画、フランス文学中心の海外文学、現代思想が三本柱らしい。硬派。最近の「女子棚」について)
……あまり女子、女子って言って棚を作っていると、まるで「女の人はこういうのが好きなんでしょ?」と見下しているように思われるかもしれませんがぜんぜんそういうことではなくて、売れていくもの、人気のある本の傾向がハッキリある、ということなんです。(「女子棚」の2〜3割は男性客とか)
 古本というのは長いあいだ男の趣味、中でも中高年男性の世界と思われていたのが、この10年ほどでずいぶん変わりました。女性が当たり前のように古本屋に来るようになっていて、だから今はもはや、女性に古本力が付いたんじゃなくて、男にようやく女子力が付いた時代といえるかもしれません。その場合の「女子」というのは、必ずしも男性/女性という性別のことではなく、またジェンダーともちょっと違って、装丁とかデザイン、モノとしての本の価値をもっとちゃんと見ましょう、ということだったり、あとは実用書や絵本なども含めて、もっと視野を広く持って、いろいろ本を楽しめるんじゃないか、今までとは違ういろいろな向き合い方が実は本にはあるんじゃないかって、そういうことをあまり声高ではない仕方で、さりげなく気づいたり、大事にしていたりする人が増えていて、そういう人たちに気にしてもらえる棚を作ることが、いま、古本屋にとってかなり重要なことになってきていると思うんですね。

 90年代後半、独立前、まだ無名だった岡崎武志を招いて有志で勉強会。岡崎の「これからの古本屋は、店がきれいで、入りやすくなきゃいけない」という発言に、参加者は「それではブックオフ」と反論。広瀬だけが岡崎の意見に賛成を表明。岡崎はその言葉に救われた。以下、岡崎の話。

 目録も販売会もネット販売もほとんどやらない音羽館は店売りがすべてで、そこに置かれた本は本当に川上から川下まで、水がスイスイ流れていくイメージですね。
(2000年代以降、古本屋の良いモデルになっている)
 もしこの先、音羽館が危うくなるようだったら、それはすなわち個人経営の古本屋はもう全部ダメなんじゃないかって、ほんと、それくらいの店だと……。


◇ うみふみ書店日記 
 

 9月22日 日曜
 ♪今日も朝から一日中〜♪ 忙しい。ブックカバーはないし、両替金は足らないし。こんなこと、お上はわからん。  
 朝一でお土産が「空犬さん」付きで来店。また、逆。ありがとうございます。
 そんでね、【海】にたくさんの皆さんに来ていただけることが私たちには今ひとつ理解できていないんです。ひょっとして、「聖地」?
 GFたちもいっぱいご来店。もう握手に写真に、……抱擁は未だないです。ドサクサでセーラ編集長とも握手。
 忙しくても楽しんでいるおっさん。苦労は他のスタッフたち。
 やはり書店関係者がご来店のよう。ほんまに名乗ってよね!
 

神戸新聞」書評欄で、郄田郁さんが『海文堂書店の8月7日と8月17日』を紹介してくださった。

神戸元町海文堂書店は在る。今日、この日、確かに在る。......
写真集に収められた一葉、一葉を慈しみ、撫でさすりながら、私は思う。神戸元町には海文堂は必要だ、本を愛する全てのひとのために、海文堂書店は必要なのだ、と。時代の流れを止めることも、決定を覆すことも出来ないけれど、せめて、記憶に刻んでほしい。元町のあの場所に、確かに海文堂は在る。今、在る。そして10月より先には、この書店を愛してやまないひとびとの、それぞれの胸の中に永遠に在り続ける。

 写真集、たくさんの方にお買いいただいています。ありがとうございます。

(平野)

週刊 奥の院 9.22

◇ ちくま文庫より。
■ 五木寛之沖浦和光 『辺界の輝き  日本文化の深層をゆく』 720円+税 
 元本は2002年岩波書店刊。
 沖浦は1927年大阪生まれ。桃山学院大学名誉教授、比較文化論、社会思想史。被差別部落で伝承されてきた民俗文化・産業技術研究。山の民、海の民の歴史も。
(帯)
 サンカとは? 遊行者とは? 漂泊民が残した豊饒な文化
 五木の『風の王国』(新潮社、1985年)について。

(沖)「霧の二上山、深夜の仁徳陵……異族の幻像か、禁断の神話か」とある。ありゃ、五木寛之って九州の生まれなのに、なぜ仁徳陵なのか、と思いましてね。ぱっぱっと頁を繰ると、二上山を中心とした「ロマンの疾風」とくる。ひとりの青年が、二上山の山中で、かぜのように疾歩する不思議な女性を見たところからはじまる。おう、これはうちのホームグランドじゃないか(笑)。……「戸籍から消えた流民の群れ、風の一族」とある。風のように山中を疾歩する若い女は、流浪の民「ケンシ」の後裔だった。あっ、これ、サンカじゃないか。すぐ、ピーンときました。二上山とサンカ……どういうことなんだと。
(五)あの「風」は、紀州との境の「風の森峠」からイメージがつながったんです。

1 漂白民と日本史の地下伏流
2 「化外(けがい)の民」「夷人雑類(いじんぞうるい)」「屠沽の下類(とこのげるい)」
3 遊芸民の世界――聖と賤の二重構造
4 海民の文化と水軍の歴史
5 日本文化の深層を掘り起こす

■ 大村彦次郎 『文壇さきがけ物語  ある文藝編集者の一生』 1200円+税 
 大村は1933年東京生まれ。講談社で文芸雑誌編集など文芸出版一筋。
「純文学と大衆小説の両方に精通し、しかも、文学史と時代の流れを俯瞰する目を持っている。この世界の第一人者といっていいだろう」(川本三郎・解説)。
 本書は、大正末から活躍した編集者・楢崎勤(1901〜78)の一生を追い、戦前・戦後の昭和文壇の舞台裏を描く。
 楢崎は1925年(大正14)に新潮社入社。

……楢崎は最初、出版部に配属された。出版実務にはほとんど無知だったので、支配人の中根駒十郎から出版部員としての基礎知識について、懇切丁寧な指導を受けた。また中根は楢崎を連れて、芥川龍之介佐藤春夫久保田万太郎、吉田絃二郎、北原白秋といった、新潮社と関係の深い作家や詩人宅を回り、楢崎を彼らに紹介した。……

 社長の佐藤義亮を中心にした「家内工業」。佐藤は当時無理がたたって自邸に籠っている日が多かった。

……楢崎はその枕元に呼びつけられては、社長直々に編集者心得を言い含められた。新刊書の広告コピーや小説の梗概を書いたり、作家の講演筆記を起こすことなどが最初に与えられた仕事だった。……

 関東大震災の復興期。作家の地位が高まり、作家志望の文学青年が増えた。それに編集者・中村武羅夫伊藤整ら。作家たちもそうそうたる人物が並ぶ。
 楢崎自身、昭和の初めに新興芸術派の一員としてデビューしたが、作家としては大成しなかった。

■ 植草甚一 『いつも夢中になったり飽きてしまったり』 1100円+税 
 元本は1975年番町書房。
● ニューヨークは思い出して書きやすいところだった
● やさしい本ばかり読んできた
● ジャズとロックの快的混沌状態のなかで
● 「草月アート・センター」時代はみんな若かった
● なんにでも手を出しては失敗する男
● フォニーの五つのタイプ



◇ うみふみ書店日記
 9月21日 土曜 
 林哲夫さん来店。個展のご案内をいただく。 「巴里2013、東京1978」 10.5〜16 ギャラリー島田にて。
 
 











 






その林さんのブログで『BOOK5』の話。もう【海】で買えない。 http://sumus.exblog.jp/
 
 P社Iさん、またまたたくさんお買い上げ。買い切りI書店の本をしばらく買わずに【海】で。ほんとにいろいろと考えてくださる。ありがとう。
 今日もたくさんの営業職の方々がお別れに。仕事抜きで来てくださる。
 日販の昔の担当さんも赴任地からわざわざ。

 成田さんの展覧会も大盛況。

【海】写真集もすごい勢いで買っていただいている。追加せねば。しっかし、「閉店」が本になるなんて。

 GF・Kさんの母上様までご挨拶してくださる。
 
 トンカさんから、懐かしいお客さんのことを聞く。お元気なら何よりです。

 前の店からのお客さんHさんはポートアイランドから来てくれる。「大きいとこはイヤ、はよ次の本屋に〜」とわがままを。

(平野)

週刊 奥の院 9.22

◇ ちくま文庫より。
■ 五木寛之沖浦和光 『辺界の輝き  日本文化の深層をゆく』 720円+税 
 元本は2002年岩波書店刊。
 沖浦は1927年大阪生まれ。桃山学院大学名誉教授、比較文化論、社会思想史。被差別部落で伝承されてきた民俗文化・産業技術研究。山の民、海の民の歴史も。
(帯)
 サンカとは? 遊行者とは? 漂泊民が残した豊饒な文化
 五木の『風の王国』(新潮社、1985年)について。

(沖)「霧の二上山、深夜の仁徳陵……異族の幻像か、禁断の神話か」とある。ありゃ、五木寛之って九州の生まれなのに、なぜ仁徳陵なのか、と思いましてね。ぱっぱっと頁を繰ると、二上山を中心とした「ロマンの疾風」とくる。ひとりの青年が、二上山の山中で、かぜのように疾歩する不思議な女性を見たところからはじまる。おう、これはうちのホームグランドじゃないか(笑)。……「戸籍から消えた流民の群れ、風の一族」とある。風のように山中を疾歩する若い女は、流浪の民「ケンシ」の後裔だった。あっ、これ、サンカじゃないか。すぐ、ピーンときました。二上山とサンカ……どういうことなんだと。
(五)あの「風」は、紀州との境の「風の森峠」からイメージがつながったんです。

1 漂白民と日本史の地下伏流
2 「化外(けがい)の民」「夷人雑類(いじんぞうるい)」「屠沽の下類(とこのげるい)」
3 遊芸民の世界――聖と賤の二重構造
4 海民の文化と水軍の歴史
5 日本文化の深層を掘り起こす

■ 大村彦次郎 『文壇さきがけ物語  ある文藝編集者の一生』 1200円+税 
 大村は1933年東京生まれ。講談社で文芸雑誌編集など文芸出版一筋。
「純文学と大衆小説の両方に精通し、しかも、文学史と時代の流れを俯瞰する目を持っている。この世界の第一人者といっていいだろう」(川本三郎・解説)。
 本書は、大正末から活躍した編集者・楢崎勤(1901〜78)の一生を追い、戦前・戦後の昭和文壇の舞台裏を描く。
 楢崎は1925年(大正14)に新潮社入社。

……楢崎は最初、出版部に配属された。出版実務にはほとんど無知だったので、支配人の中根駒十郎から出版部員としての基礎知識について、懇切丁寧な指導を受けた。また中根は楢崎を連れて、芥川龍之介佐藤春夫久保田万太郎、吉田絃二郎、北原白秋といった、新潮社と関係の深い作家や詩人宅を回り、楢崎を彼らに紹介した。……

 社長の佐藤義亮を中心にした「家内工業」。佐藤は当時無理がたたって自邸に籠っている日が多かった。

……楢崎はその枕元に呼びつけられては、社長直々に編集者心得を言い含められた。新刊書の広告コピーや小説の梗概を書いたり、作家の講演筆記を起こすことなどが最初に与えられた仕事だった。……

 関東大震災の復興期。作家の地位が高まり、作家志望の文学青年が増えた。それに編集者・中村武羅夫伊藤整ら。作家たちもそうそうたる人物が並ぶ。
 楢崎自身、昭和の初めに新興芸術派の一員としてデビューしたが、作家としては大成しなかった。

■ 植草甚一 『いつも夢中になったり飽きてしまったり』 1100円+税 
 元本は1975年番町書房。
● ニューヨークは思い出して書きやすいところだった
● やさしい本ばかり読んできた
● ジャズとロックの快的混沌状態のなかで
● 「草月アート・センター」時代はみんな若かった
● なんにでも手を出しては失敗する男
● フォニーの五つのタイプ



◇ うみふみ書店日記
 9月21日 土曜 
 林哲夫さん来店。個展のご案内をいただく。 「巴里2013、東京1978」 10.5〜16 ギャラリー島田にて。
 
 











 






その林さんのブログで『BOOK5』の話。もう【海】で買えない。 http://sumus.exblog.jp/
 
 P社Iさん、またまたたくさんお買い上げ。買い切りI書店の本をしばらく買わずに【海】で。ほんとにいろいろと考えてくださる。ありがとう。
 今日もたくさんの営業職の方々がお別れに。仕事抜きで来てくださる。
 日販の昔の担当さんも赴任地からわざわざ。

 成田さんの展覧会も大盛況。

【海】写真集もすごい勢いで買っていただいている。追加せねば。しっかし、「閉店」が本になるなんて。

 GF・Kさんの母上様までご挨拶してくださる。
 
 トンカさんから、懐かしいお客さんのことを聞く。お元気なら何よりです。

 前の店からのお客さんHさんはポートアイランドから来てくれる。「大きいとこはイヤ、はよ次の本屋に〜」とわがままを。

(平野)

週刊 奥の院 9.21

■ 四方田犬彦 『白土三平論』 ちくま文庫 1000円+税 
 1953年生まれ。宗教学、比較文学。大学で教鞭のかたわら他分野にわたって評論・翻訳活動。サントリー学芸賞伊藤整文学賞桑原武夫学芸賞など。
 本書は漫画評論、2004年作品社より刊行。文庫化にあたり、白土三平先生との一夜」を加える。
Ⅰ 漫画家になるまで  Ⅱ 初期の貸本漫画  Ⅲ 『忍者武芸帳』  Ⅳ 六〇年代前半の長編  Ⅴ 六〇年代前半の短編  Ⅵ カムイ伝  Ⅶ 『神話伝説』と『女星』  Ⅷ カムイのその後  Ⅸ 白土三平の食物誌  Ⅹ 結論

 白土三平の漫画に圧倒的な影響を受けてきたことを告白する。

……
 微塵隠れの術を本気で試してみようと思った。一九六三年の秋、十歳のときのことである。月刊雑誌『少年』に連載されている忍者漫画『サスケ』(一九六一〜六六)のなかで、主人公の少年が努力に努力を重ねてついに成功するこの忍術を、自分の手で実験してみようと決心したのである。
 いくら木の葉を重ねて撒き散らしても、木の葉隠れの術ができないことは、すでに原っぱに同級生たちを呼び出してみたときに体験的にわかっていた。昆虫にしか聴こえない超音波を口にして、彼らを呼び集めるという虫遁の術にしたところで、口のなかで唸ってみてもいっこうに効果がないことから、挫折していた。オボロ影の術は装置が複雑すぎて子供には無理だし、分身の術はとても体力がおいつきそうにない。いろいろ悩んだあげくに、微塵隠れならばなんとか工夫すればできそうだし、効果が派手だという結論に達した。

「微塵隠れ」とは、洞窟に敵を誘いこみ、仕込んでおいた火薬に点火、爆発させる。自分も危険。前もって穴を掘っておいて身を隠す。呼吸のために長い筒を用意しておくことも必要。漫画の中でも、子供がサスケの真似をして、無残にも爆死している。
 四方田少年は弟と近所の山の洞窟で実験した。火薬は花火の残り。
「気分は少年忍者サスケである」
 結果……失敗。火薬は湿っていたし、洞窟内は水が溜まり、湿度高く、何よりゴミ捨て場と化していて、臭いに我慢できなかった。
 それでよかったと思う。

……白戸先生の漫画を通して学んだものは、微塵隠れの術だけではなかった。
 わたしは『戦争』という連作短編から第二次大戦の悲惨について学び、『忍者武芸帳』(一九五九〜六二)からブラッディソーセージの作り方について学んだ。『カムイ伝』」(一九六四〜七一)から社会に横たわるさまざまな差別について学んだ。『今昔物語』の面白さについて学び、漁師が会場で漁場の位置を以下に記憶するかについて学び、アフリカの神話的想像力のなかから王権がいかに誕生するかについて学んだ。白土三平の作品はわたしにとって、階級闘争を鼓舞する扇動の書物であるとともに、柳田國男に通じるフォークロアの集大成であり、南方熊楠に似た博物学的知の宝庫であるように感じられた。
……批評家としての今日のわたしを形成している核には、ゴダールのフィルムや大岡省平の小説と並んで、少年時代に白土漫画に読み耽っていた体験が横たわっている。ちなみにわたしの最後の夢は、『甲賀武芸帳』(一九五七〜五八)の石丸少年に倣って、茸についての書物を執筆することである。……


 下町のアホガキも忍者に憧れた。漫画雑誌巻頭特集にあった忍者の訓練を真似した。水に顔をつけて何秒息を止められるか、濡れた新聞紙の上を破ることなく走れるか、などを試した。


◇ うみふみ書店日記
 9月20日 木曜
 書籍の新刊配本と雑誌入荷最終日。明日からは注文品のみとなった。
 平野担当のフェア、最後の二つ。
1 平凡社在庫僅少本
  


















2 いっそこの際 好きな本 うらばん  奥の院より観音様がいでまして〜  花房観音、うかみ綾 他。
 
 

















午前中は岡崎武志さん来店。午後はグレゴリ青山さん。ありがとうございます。
 
海文堂書店の8月7日と8月17日』(夏葉社)、お知らせより1日早く入荷。おかげで、ご両人に買っていただけた。
  
 
















 本書についてもう紹介が出ました。ありがとうございます。
「空犬通信」 http://sorainutsushin.blog60.fc2.com/blog-entry-2130.html
 営業マンさんが大勢訪問。皆、もう注文を取れない。本を買ってくださる。
 一人だけ営業したのは京都H蔵館のK女史。テレビで紹介された本、「直送しますやん」。しっかり者。


(平野)
本日より、 成田一徹 切り絵展  2Fギャラリー 27日(金)まで。 入場無料。