週刊 奥の院 9.23

■ 広瀬洋一 『西荻窪の古本屋さん 音羽館の日々と仕事』 本の雑誌社 1500円+税 
 この本も【海】閉店に間に合ってよかった。
 とは言っても行ったことも、お会いしたこともないのです。
 広瀬は1965年神奈川県生まれ。東京・町田の「高原書店」勤務ののち、2000年に独立。夫人と二人の青年といっしょ。
 トレードマークのイラストは夫人の肖像、かわいい! すぐにGF登録したい。一見、「女子の古本屋」さん。
(帯) 誰が行ってもあそこには必ず好きな棚がある――穂村弘
 店名の由来?

……時折聞かれることがありますし、雑誌の取材などで質問されることもあります。その度に私はなにやらモゴモゴ答える羽目になるのですが、どうもスッキリ答えられたためしがない。音楽が好きなので、「音」の一文字を入れたかったという、ボンヤリとした思いはあります。(ハッキリ決めていたわけではなく、「羽」は、「館」はと聞かれたら困る)……「おとわかん」と発音した時の具合がなかなか悪くないじゃないか、だいたいそんな感じです。
(同業者にたずねたが、皆、いい加減。「なんか語呂がいい」「特に意味なし」がザラ。「思い出せない」というツワモノも。宮沢賢治の「ポランの広場」から取った「ポラン書房」は「ちゃらんぽらん」とうそぶく。「畸人堂」は「畸人変人」、「書肆ひぐらし」は「その日暮らしだから」……)
 ちょっと待てよ、みんな自虐的すぎないかって気もしますけど(笑)、まあ、深い意味はないと思ったほうがいいかもしれません。

「女子に古本力が付いたのではなく、おじさんに女子力が付いた」より。

……本の好きな人の中で「いい本」とか「いい本屋」って表現が出る時は、文芸書の貴重な絶版本だとか、人文書が充実している本屋のイメージがあると思います。ほんとうはそのあたりはたくさんある本の中の一部に過ぎないのですが、男性のお客さんの中にはその意識は根強い。……
人文書では、映画、フランス文学中心の海外文学、現代思想が三本柱らしい。硬派。最近の「女子棚」について)
……あまり女子、女子って言って棚を作っていると、まるで「女の人はこういうのが好きなんでしょ?」と見下しているように思われるかもしれませんがぜんぜんそういうことではなくて、売れていくもの、人気のある本の傾向がハッキリある、ということなんです。(「女子棚」の2〜3割は男性客とか)
 古本というのは長いあいだ男の趣味、中でも中高年男性の世界と思われていたのが、この10年ほどでずいぶん変わりました。女性が当たり前のように古本屋に来るようになっていて、だから今はもはや、女性に古本力が付いたんじゃなくて、男にようやく女子力が付いた時代といえるかもしれません。その場合の「女子」というのは、必ずしも男性/女性という性別のことではなく、またジェンダーともちょっと違って、装丁とかデザイン、モノとしての本の価値をもっとちゃんと見ましょう、ということだったり、あとは実用書や絵本なども含めて、もっと視野を広く持って、いろいろ本を楽しめるんじゃないか、今までとは違ういろいろな向き合い方が実は本にはあるんじゃないかって、そういうことをあまり声高ではない仕方で、さりげなく気づいたり、大事にしていたりする人が増えていて、そういう人たちに気にしてもらえる棚を作ることが、いま、古本屋にとってかなり重要なことになってきていると思うんですね。

 90年代後半、独立前、まだ無名だった岡崎武志を招いて有志で勉強会。岡崎の「これからの古本屋は、店がきれいで、入りやすくなきゃいけない」という発言に、参加者は「それではブックオフ」と反論。広瀬だけが岡崎の意見に賛成を表明。岡崎はその言葉に救われた。以下、岡崎の話。

 目録も販売会もネット販売もほとんどやらない音羽館は店売りがすべてで、そこに置かれた本は本当に川上から川下まで、水がスイスイ流れていくイメージですね。
(2000年代以降、古本屋の良いモデルになっている)
 もしこの先、音羽館が危うくなるようだったら、それはすなわち個人経営の古本屋はもう全部ダメなんじゃないかって、ほんと、それくらいの店だと……。


◇ うみふみ書店日記 
 

 9月22日 日曜
 ♪今日も朝から一日中〜♪ 忙しい。ブックカバーはないし、両替金は足らないし。こんなこと、お上はわからん。  
 朝一でお土産が「空犬さん」付きで来店。また、逆。ありがとうございます。
 そんでね、【海】にたくさんの皆さんに来ていただけることが私たちには今ひとつ理解できていないんです。ひょっとして、「聖地」?
 GFたちもいっぱいご来店。もう握手に写真に、……抱擁は未だないです。ドサクサでセーラ編集長とも握手。
 忙しくても楽しんでいるおっさん。苦労は他のスタッフたち。
 やはり書店関係者がご来店のよう。ほんまに名乗ってよね!
 

神戸新聞」書評欄で、郄田郁さんが『海文堂書店の8月7日と8月17日』を紹介してくださった。

神戸元町海文堂書店は在る。今日、この日、確かに在る。......
写真集に収められた一葉、一葉を慈しみ、撫でさすりながら、私は思う。神戸元町には海文堂は必要だ、本を愛する全てのひとのために、海文堂書店は必要なのだ、と。時代の流れを止めることも、決定を覆すことも出来ないけれど、せめて、記憶に刻んでほしい。元町のあの場所に、確かに海文堂は在る。今、在る。そして10月より先には、この書店を愛してやまないひとびとの、それぞれの胸の中に永遠に在り続ける。

 写真集、たくさんの方にお買いいただいています。ありがとうございます。

(平野)