週刊 奥の院 9.24

■ 週刊朝日編集部編 『忘れられない一冊』 朝日文庫 520円+税 
週刊朝日」連載。各界の著名人82人が本との出会いを語る。
 名前の50音順に構成しているので、トップバッターは官能作家・藍川京。いきなり〜!
 キスへの憎しみ 読むのが早すぎた一冊
 恋愛の話。中2の時、文学青年で兄とも慕う浪人生に告白され、キスされた。子どもができたら……不安に苛まれた。真剣にキスで妊娠すると思っていた。彼を憎んだ。その彼がプレゼントしてくれた本は、富島健夫『雪の記憶』。性の場面はラストだけ。主人公の男性、女性が拒むのにスカートのベルトを外す。
 彼のことがおぞましくなり、別れを告げた。
 いろいろな経験をして作家デビュー。富島の本よりハードなものを書くようになる。

……そのうち、憎いと思っていた人にも会いたくなった。彼は教師をしていた。笑顔の再会になった。四十年以上前に戴いた『雪の記憶』は、読むのが早すぎただけだった。……


 青山南 お粗末な書店と大雨 高校生で出会った二人の「作家」
 高校生の時に買った、ジョン・スタインベック怒りの葡萄』(全3冊、角川文庫)。表紙の絵がベン・シャーン。買った店は、通学路の途中の3軒の本屋の中でもっとも「お粗末な書店」。

……駅からも離れていればぜんぜんおしゃれでもない、自分の家のつかっていない部屋をふたつほどぶち抜いて発作的に本屋を始めたとしか思えないような、ちょっと薄汚れた、見るからにお粗末な書店。……たまにしか入らないのだが、いつ入っても、なにもないなあ、ここは、と生意気な感想しか出てこなかった。……実用書と全集とベストセラーと文庫が投げ出されるように置いてあるだけ。ホコリもかぶっている。信じられない。

 大雨で雨宿り。その店で出会った。

 初めてのジャケ買い。ていねいにカバーをかけて読んだ。
 感謝すべきは、あの信じられない本屋にか、とつぜんの大雨にか。


 なぎら健壱は小6の時古本屋で手に入れた『ああ無情』。同じ本をふらりと入った古本屋で発見して、手に取った。

 懐かしさに頁をめくり、文章と挿絵を眺めている時、ふと妙なことが思い出された。確かこの本には落丁があった。ページをめくる手が止まった。
「そ、そんな!」
……

 本の後ろ見返しを開くと、自分の名前のゴム印が押してあった。


 仕事を辞める決意をした本、性の目覚めの思い出、酒代に消えた本、夢の中の古本屋、などなど。


◇ うみふみ書店日記
 9月23日 月曜
 休みで、妻の実家の墓参り。夕方から店に。混んではいるが、土・日ほどでもなく。しばらくカウンター内に。
 今日もGFがいっぱい。
 写真集が品切れ寸前で、水曜日に再入荷予定。
 年配のお客さんが、「大変でしょうが、お体に気をつけて」と労ってくださる。


「朝日」9.22書評欄。
 旬子サマがカッパ・ブックスの時代』(新海均、河出ブックス)を紹介。
 ベストセラーを連発していた黄金期、不祥事、労働争議……、会社のドル箱は女性ファッション誌に移る。そのファッション誌出身の編集者が社長になり、大リストラ。カッパ・ブックス編集部は廃部。同編集部出身の著者の悔しさ。リストラ後、経営は広告収入で好転。

……会社が最後に守るべきものは何か。社名か、従業員か。「わからない」と並河元社長(ファッション誌出身)はつぶやく。社が作ってきた「本」という製品は、守るべき対象には入らないのか。聞いてみたくなった。


 同じく、コラム「本の舞台裏」(上野佳久)
 札幌のくすみ書房は、「なぜだ!? 売れない文庫フェア」や「中学生はこれを読め!」など個性的なフェアで知られる。
 経営難に直面。
「苦しい時こそ、本屋の原点に返って棚を充実させたい」と、新しい本棚づくりのための資金300万円をネットで募る。
クラウド・ファンディング」という仕組みで、3000円から30万円まで選べ、金額に応じてプレゼント。9月28日午後8時締切で、目標額300万円に届いた場合のみ、クレジットカード決済。
 くすみ書房は今春も廃業危機になり、年会費1万円の「友の会」会員を募集し、400人が集まり乗り切った。
 今年の「中学生は〜」フェアは選書に中学生も参加する予定だったが、経営難でストップしている。
 代表の言葉。
 何としても中学生と一緒にリストを完成させたい。できることは何でもやる。

(平野)