週刊 奥の院 11.10

■ 松永和浩 編著 『ものづくり上方“酒”ばなし――先駆・革新の系譜と大阪高等工業学校醸造科――』 (大阪大学総合学術博物館叢書8) 大阪大学出版会 2000円+税 
 大阪大学総合学術博物館は創立10周年を記念して、「ものづくり上方“酒ばなし”先駆・革新の系譜と大阪高等工業学校醸造科――」を開催中(10.27〜13年1.19)。「日本の酒造りを牽引してきた上方および大阪大学の位置について、技術・社会・文化など多方面にわたって、各種資料に基づき紹介」。
阪大と酒造が関係?
http://www.museum.osaka-u.ac.jp/jp/index.html
 
 江戸時代、伊丹・池田の清酒、それに灘の酒は江戸で大人気を博した。明治24(1891)年、日本人による初のビール工場が吹田に完成(現アサヒビール吹田工場)。明治末から大正にかけて寿屋(サントリー)が「ワイン」を広めた。広告が斬新だった。大正13(1924)年山崎にウイスキー工場。
 明治30(1897)年、国内初の醸造科が大阪工業学校(のち大阪高等工業学校、大阪大学大学院工学研究科の前身)に誕生。全国から造り酒屋の子弟が入学した。多くの人材が酒造業に貢献している。
目次
? 古代・中世の酒と人々  松永
1 古代日本の酒と人々 2 中世の酒と人々 3 中世的「酒」から近世的「酒」へ
コラム 古代・中世の酒杯  飲酒と戒律
? 江戸を席巻する「下り酒」  久野洋・松永
1 「下り酒」の銘醸地・伊丹 2 池田酒の盛衰 3 灘の生一本
コラム 待兼山と『池田酒史』
? 洋酒製造・普及の最前線  久野・伊藤謙
1 巨大ビール工場の出現―−吹田村醸造所 2 「ポートワイン」の普及――鳥井信次郎の販売戦略
コラム 薬酒の世界
? ジャパニーズ・ウイスキーの先駆者  松永
1 「舶来」・「偽物」の時代 2 最初の事業家・鳥井信次郎 3 最初の技術者・竹鶴政孝
? 阪高醸造科のスピリッツ  松永 (教授・卒業生たちの活躍の一部)
坪井仙太郎(初代教授)、西脇安吉(助教授・教授、存続の危機を救う)、岩井喜一郎(第1回卒業生、摂津酒造常務、ウィスキー国産化の先駆者)、本坊蔵吉(薩摩酒造、焼酎)、河内源一郎(白麹発見) 他。
 図版が多数。瓶のラベルや宣伝ポスターを見るだけで楽しい。寿屋「トリス」や「洋酒天国」はよく見かける。「ホームサイエンス」という科学雑誌は初めて。小磯良平の表紙。佐治敬三(阪大理学部卒)が入社の条件に雑誌出版を求めたそう。
(平野)