週刊 奥の院 8.24

■ 下田淳 『居酒屋の世界史』 講談社現代新書 740円+税 
著者、1960年生まれ。宇都宮大学教授、ドイツ史。『ドイツの民衆文化――祭り・巡礼・居酒屋』(昭和堂)で、ドイツの民衆文化には居酒屋が不可欠と知る。本書は世界の居酒屋を調べた「居酒屋比較文化論」。
 通史編 
第1話 古代オリエントギリシア・ローマ――居酒屋の誕生期
第2話 ヨーロッパの中近世――居酒屋の最盛期
第3話 ヨーロッパの近現代――居酒屋の衰退期
第4話 イスラム圏の居酒屋
第5話 中国・韓国の居酒屋
第6話 日本の居酒屋
 テーマ編
第7話 教会と居酒屋
第8話 売春と居酒屋
第9話 芸人と居酒屋
第10話 犯罪・陰謀と居酒屋

ドイツ農民戦争フランス革命は居酒屋からはじまった」
「売春は想像できる、銀行や裁判所であった、といったら?」
「外科医が治療する病院だった」
ヒトラーが演説した」
「禁酒のイスラム圏にもあった」
……
 本書のキーワード。 「農村への貨幣経済浸透」「居酒屋の多機能性」「棲み分け」。
 

  居酒屋は単に飲食、宿屋の機能をもつだけではなかった。そこではさまざまなエンターテイメントがおこなわれた。賭博がおこなわれ、芸人が活動し、性を求めあるいは売り物にする男女が棲息した。
 重要なのは、居酒屋が人びとのコミュニティーセンターであったことである。情報収集、商談、職業斡旋から金貸しや裁判所の機能まで備えていた。権力批判、謀議の拠点となる場合もあった。ヨーロッパ文明圏では、教会に代わって冠婚葬祭の祝宴の場となった。中国の茶館もある程度の「多機能性」をもったが、イスラムのカフェや日本の居酒屋は、エンターテイメントと売春のみ付属していたにすぎなかった。居酒屋のもった「多機能性」はヨーロッパ、しかも中近世でもっとも発達したと結論できる。

 パリの居酒屋と言えば、エミール・ゾラ。労働者は、仕事前・仕事中・仕事後、そこで飲む。ここで賃金を受け取り、飲む。1840年代、人口1000人に対する居酒屋軒数、ロンドン1軒、ニューヨーク3軒、パリ11軒超。居酒屋天国というより、アル中天国だった?
(平野)