人文・社会

アルベール・カーン


■『アルベール・カーン コレクション』 ディヴィッド・オクエフナ/NHK出版 6500円+税
 20世紀初頭、フランスの銀行家アルベール・カーン(1860−1940)は私財を投じて、世界中にカメラマンを派遣した。
 「それぞれに尊敬に値する質素な暮らしを営んでいる多種多様な人類を記録すること。そこから自分の夢である世界平和への機運が高まってくれればと期待した」(アルベール・カーン博物館館長ジル・ボー=ベルティエ)
 カーンの平和思想は筋金入り。一家は1870年の普仏戦争で、アルザスを追われたユダヤ人。パリに移り、カーンは16歳で銀行の見習い社員になる。経験を積み、南アフリカの鉱山への投資で成功し、自分も30代で大富豪になった。その間、哲学者アンリ・ベルグソンの知遇を得、教えを受けている。資産をもとに「世界一周」という奨学金を創設して、若い学者を海外に生かせた。第一次大戦前に既に、世界平和と多文化共生・理解という理想がある。
 ユダヤ人でしかも銀行家というカーンは政治的右派からは攻撃の対象だ。そのうえ、ドレフェス事件に端を発した反ユダヤ主義が巻き起こった時代。そして、大戦。
 カメラマン派遣の大事業は1910年から。パリの街並みさえ、カーンの少年時代から様変わりしている。記録を残すことの重要性を認識していた。日本には26年からロジェ・デュマが来て、2年で1944枚の写真を撮っている。民俗学宮本常一の業績に先んじる。
 「ノーブリス・オブリージュ」というものではござんせんか。
(平野)



■『アルベール・カーン コレクション』 ディヴィッド・オクエフナ/NHK出版 6500円+税
 20世紀初頭、フランスの銀行家アルベール・カーン(1860−1940)は私財を投じて、世界中にカメラマンを派遣した。
 「それぞれに尊敬に値する質素な暮らしを営んでいる多種多様な人類を記録すること。そこから自分の夢である世界平和への機運が高まってくれればと期待した」(アルベール・カーン博物館館長ジル・ボー=ベルティエ)
 カーンの平和思想は筋金入り。一家は1870年の普仏戦争で、アルザスを追われたユダヤ人。パリに移り、カーンは16歳で銀行の見習い社員になる。経験を積み、南アフリカの鉱山への投資で成功し、自分も30代で大富豪になった。その間、哲学者アンリ・ベルグソンの知遇を得、教えを受けている。資産をもとに「世界一周」という奨学金を創設して、若い学者を海外に生かせた。第一次大戦前に既に、世界平和と多文化共生・理解という理想がある。
 ユダヤ人でしかも銀行家というカーンは政治的右派からは攻撃の対象だ。そのうえ、ドレフェス事件に端を発した反ユダヤ主義が巻き起こった時代。そして、大戦。
 カメラマン派遣の大事業は1910年から。パリの街並みさえ、カーンの少年時代から様変わりしている。記録を残すことの重要性を認識していた。日本には26年からロジェ・デュマが来て、2年で1944枚の写真を撮っている。民俗学宮本常一の業績に先んじる。
 「ノーブリス・オブリージュ」というものではござんせんか。
(平野)