週刊 奥の院 9.19

■ 古田一晴 『名古屋とちくさ正文館』 出版人に聞く(11) 論創社 1600円+税 
インタビュー・構成 小田光雄
 名古屋の本屋といえば、まず名前が出るのは「ちくさ正文館」。
 そして店長・古田。1952年生まれ、74年アルバイト入社、78年正式入社して現在まで。
 インタビューは、名古屋の文化的風土から始まる。小田が、『名古屋地方詩史』(杉浦盛雄、1968年)という限定本を紹介。詩、絵画にみられる新しい芸術運動、多彩な文化人、若々しいエネルギーが、「ちくさ正文館」と古田のベースにある、と。
「ちくさ」創業者は文学好きで、PR誌「千艸」を自ら編集した。古田が入社した頃、「塚本邦雄特集」を出し、同時に塚本を招いて講演会を開いた。
他にも、中井英夫、小川国夫、加藤周一らを特集。立派な“純文学誌”だった。
 古田は高校時代から映画・演劇にかかわり、書店員の活動と両立。大規模なブックフェアを手がけた。
加納光於+馬場駿吉ブックワークとその周辺展」、「新しい歴史の旅」など。それに、外部のイベントと連動してのフェアや販売。出版社や出版連合のフェアには批判的立場、独自のフェアにこだわる。

……
 書店独自のフェアというものはそれこそ時代状況の中からも生まれてきますが、基本的にはその店の地域性と客層、本の売れ方、担当者の編集などがクロスして企画されるのが王道だと思う。
(出版社からの情報と検索などデータ依存で自主フェアが減少。棚を探すことより画面検索に頼り接客がおろそかになっている)
 もちろん僕たちが新入社員だった頃よりも営業時間が長くなり、担当分野も多くなり、店員同士の情報交換の時間も少なくなり、他店の人たちとの交流もなくなっている現在の書店状況も大いに影響している。
 だからその代償行為として、POPなどによる「書店員のすすめる本」がとてもはやっているのではないかと思っています。
……単品ではなく、自分でひとつの分野を掘り下げていくことによって書店員の本当の力が身につく、僕は確信しているので、「書店員のすすめる本」ブームの行く末が心配になってくる。こういう試みが当たって、ベストセラーが生み出されたことも重々承知しているけど、僕の場合はもともとベストセラーにするとか、ベストセラーをさらに売り伸ばしましょうという発想はいまだに持っていないから。……
(すべてのフェアが地続きであり、古田がかかわってきた文化運動とも地続き)
だから余計にお仕着せのフェアはできない。

 澁澤龍彦フェアでは名古屋のコレクターに「澁澤本」を借りて展示した。浅川マキ没後1年に合わせ、友人に「浅川マキ・オリジナルレコードジャケット」を提供してもらった。
 リアル書店の可能性について。

 今の書店状況はかつてに比べて三倍働かないとやっていけない。
(店のルーティンワーク、フェア・イベント、他店との差別化……、レジや雑役をし、全体を運営)
……でもベーシックな品揃えに関しては決して手を抜いていない。書店の場合の棚の判断は詩と芸術評論を見ればよくわかる。そこが一番面倒だから、品揃えや選書が店の欠落、もしくは個性としてすぐに出てしまう。だから非常にこわいところです。
 ちくさ正文館は人文、文芸、芸術にジャンルをしぼり、どこにもあるものは置かない方針をとっている。それもあって、固定客の層が厚い。だから目的の本以外にも刺激的で、思わず手にとってしまう本をセレクトした棚を心がけ、リピーターとしてのまたの来店を誘うようなインパクトを常に与えたいと思っている。
(昔の客層だけを想定しているだけではなく、店に合う若い客層を引き寄せる本や雑誌に気をつけ揃えていく)それらに常にアンテナを張り続けるためには、僕では年齢的な限界がある。
 だから若い人を育てなければならない。これからの書店はそれに尽きる。……それができないことには書店の将来像が描けない。


 1冊の本を置く、その隣に並ぶ本は……。古田にはその考え・実践の奥に広く深い背骨があることがわかる。
 もうすぐ消えてしまう【海】だが、本書を並べられてよかった、とつくづく思う。

(平野)
 お知らせ 単行本用の白ブックカバーにつきまして、再度のお願いとおことわりです。昨日はお買い上げの本のみとお伝えしましたが、いよいよ底をついてきました。本日より、お一人に一枚しかカバーをおつけできません。複数冊お買い上げの皆さまには申し訳ありません。

 日記は明日。