週刊 奥の院 8.25

■ 杉江由次 『サッカーデイズ』 白水社 1600円+税 

 1971年埼玉県生まれ。
 白水社Web連載「蹴球暮らし」。

(帯)

突然地元の少女サッカーチームに入団した運動音痴の娘。
チームに請われて〈お父さんコーチ〉となった父親。
練習に明け暮れる日々、敗戦の悔しさや勝利の喜びの先に、
ふたりがでこぼこのグランドで見つけたのは――。
サッカーと家族を愛するすべての人に贈る〈共感〉ストーリー

 父コーチ(著者)は中学でサッカー部だった。レギュラーになれなかった。
 コーチになって、小6チームの大会でレギュラーになれなかったわが子を父兄が連れ帰る。
「レギュラーになれないんならサッカーやってる意味ねえんだよ!」
 父コーチは思い出す。中3の時、レギュラーになれると思っていたが、優秀な1年生が入部してきた。家に帰って母親に「部活やめる、受験が大事」と言うと、

「あんたさ、レギュラーになれないからってサッカーやめるって? ふざけんじゃないよ。悔しいならその一年生の何倍も練習してうまくなりなさいよ。……バカじゃないの。レギュラーだけがサッカーなの? あんたがそうやってぐちゃぐちゃ言ってるあいだも、その一年生はきっと練習してるわよ」
 最後までサッカーを続けた。
 娘のチーム「スマイルズ」、6年生中心のレギュラーチームでふたつのポジションを5年生5人が争う。5年生チームでアピールできれば6年生チームでも出場できるかもしれない。5年生チームの練習試合で、娘はディフェンダーなのにキーパーをしている。次の試合もキーパー。だれもキーパーをやりたがらない。帰りの車中、父コーチは怒る。

「レギュラーになりたくないのかよ?」
「悔しいよ。レギュラーになりたいよ……」
 娘は泣き続ける。
――何をやってるんだ。
(娘は、よその子より成長が遅く、母親が気にした。彼は怒鳴りつけた。「人の子と比較してどうするんだ。娘にはいいところがいっぱいある」)
 あんなに人と比較するなと言っていたはずなのに、娘がサッカーを始めてから私はいつも誰かと比較していた。
――もう十分じゃないか。
(娘は運動が苦手だった。2年生の時サッカーをやりたいと言い、練習のおかげで体力がついたのだった。……娘は泣き疲れて寝てしまった。家に着いて、道具を降ろしていると、彼女がボールを持って)
「公園、行こうよ……」
「え?」
「練習しに公園行こうよ」
「雨だよ」
「サッカーは雨でもやるじゃん」
 私は公園に向かって走り始めた。娘がそのあとを追って来るのが足音でわかった。……

 彼女は小学校卒業で、チームも卒団。父もコーチを退いた。

 なぜなら私には一緒にサッカーをしたい相手がいたからだ。
 それは今日も家で留守番をしている息子だった。娘がスマイルズに入団してから、私は週末のほとんどを娘と過ごしていた。
(息子のサッカーの応援に行けなかった)
 私はこれから息子と一緒にいたかった。息子のがんばる姿を応援したかった。そしてなにより一緒にサッカーをしたかった。……

 ええ話やな〜。
 杉江は「本の雑誌社」営業責任者。


◇ うみふみ書店日記
 8月24日 土曜
 ご年配の男性。「震災前は月に6回、ここに来ていた」と。
 被災されて遠くに移られたのでしょう。
「長い間、ご苦労さま。どうぞ、つつがなく」
 丁寧なご挨拶に恐縮。
「こちらこそ、ありがとうございます」

 S社(漢字6文字)のMさん、帰省で来店。


(平野)