週刊 奥の院 8.15

■ 太田尚樹 『支倉常長遣欧使節 もうひとつの遺産――その旅路と日本(ハポン)姓スペイン人たち』 山川出版社 1600円+税 
 1618年9月、仙台藩主・伊達政宗支倉常長を大使とする使節イスパニアに派遣。
 1611年、政宗は江戸でイスパニア太平洋艦隊司令官ビスカイノと知り合い、南蛮文化に興味を持った。ビスカイノが仙台を訪れ、三陸沿岸の測量と金銀探索を求める。“ジパング黄金伝説”。政宗は快諾、交易に関心があることを伝える。この時の通訳が宣教師ソテロ。彼がのちの遣欧使節に大きな役割を果たす。
 政宗の考えを推察。領内に良港を築き、イスパニア・ヨーロッパと独自の交易、最強国を通じて世界を相手に貿易、さらに、同盟を結べば、徳川幕府に潰されない国家が建設できる……。
 政宗は船の建造、ローマ法王謁見の準備にかかる。
 ビスカイノは黄金を発見できず、船が大破。政宗は、建造中の船で帰国を提案。建造・航海にビスカイノ一行の知識と経験、技術が必要だった。
 1611年10月、仙台藩は大地震津波で大きな被害。東日本大震災後、研究者から政宗の南蛮交易は復興対策という説が出ている。
 
 本書の主題は、スペインにこの使節の子孫がいること。先祖から「日本人の末裔」「サムライの子孫」と言い伝えられてきた。

 事の発端は四〇〇年前に遡る。伊達政宗から遣わされた支倉常長を大使とする日本人二六名の使節は、太平洋と大西洋の荒波を乗り越えてスペインにやって来た。その上陸地点が無敵艦隊や商船隊の玄関口だった、川岸の町コリア・デル・リオである。
 しかも一行は、スペインの首都マドリッドをへてローマに上り、帰途、日本への船出もこの町からだった。だが、日本がちょうど平成の世に入った頃、この地に残留した日本人の子孫と考えられる人々の存在が、現地メディアなどによって明らかになっていく。
 それが、ハポン(日本)という姓をもつ人々のことである。……

 太田が1993年に町役場で確認したところ、602人の「ハポン」姓の人たちがいた。隣町ブエルタ・デル・リオにも230人。
目次
プロローグ
第1章 支倉使節団とは何か  第2章 使節団の足跡を訪ねて――月浦(石巻市)からローマまで  第3章 サムライの末裔伝説を追って  第4章 コリア・デル・リオ、二〇一二

 太田は作家で東海大学名誉教授、スペイン文明史、比較文明論。スペイン関連の著書他、慶長使節団、昭和史など多数。
 ハポン姓のことを知ったのは1989年。専門の農業経済史の研究でスペイン滞在中。二つの町を訪れた。
 そのときの光景は驚きだった。青々とした水田が辺り一面に広がり、実をつけたばかりの青い稲穂が風の中にそよぎ、しかも田んぼはあぜ道で仕切られていて、細い小川が、次から次へと田んぼに水を注いでいるではないか。私はもう少しで「これは日本の田園風景だ!」と、叫んでしまいそうになった。……
 太田は役場、郷土史家を訪ね、「末裔伝説」を追う。教会の洗礼台帳も調べる。ハポン姓が最初に出てくるのは1667年。支倉帰国50年後。「ドン・マルティンハポン」が父親の名。73年、アンドレハポンの名。彼らは残留した者の息子か孫だろう。「末裔伝説」は真実か? 調査を続け、残留した人物8人を特定していく。残留した理由も。
 大田の専門「農業経済史」から見ると、残留者は農業で生き抜いたのだろう。それに漁業。
 
 2012年秋、太田はコリア・デル・リオを訪れた。役場のマヌエルは東北の震災を心配してくれる。そして、言う。

 「マサムネがハセクラたちを送り出す数年前にも、センダイには大きな地震津波があったそうですね。大きなダメージ
から未来に気持ちを切りかえ、大海に乗り出してイスパニアをめざしたハセクラは、センダイのヒカリだったのでしょう?」
 私はこう応じていた。
「今もそうです。とくに今回の東日本大震災でもっとも多くの命が失われた宮城県の人々にとって、伊達政宗のリーダーシップと支倉常長の遣欧使節の勇敢さは郷土の“希望の星”なのです」


◇ うみふみ書店日記
 8月13日 火曜
 GF・Y子さん来店。ロフ子さんのブログ記事を教えてくれる。おじいは調子に乗ってよいか? 出版・書店関係者よ、ヤキモチ焼くな、許せ!
http://flat.kahoku.co.jp/u/junko/
 G書館 Kさん、帰省途中遠回りで訪問。「【海】に来なければご先祖様にお参りできない」。
 友人の娘さんが来てくれる。彼氏と一緒。
 仲良し編集さんがお友だちのブックデザイナーさんと来店。即GF登録。たくさん本を買ってくださり、そのうえ記念写真の栄誉。
 閉店後、ジミッチー夫妻とK放出版社Tさん、T方出版Iさんと呑み会。

 8月14日 水曜
 Facebookとやらで娘が「みずのわ」と会話しとる。
 元業界人MさんとKさんお揃いで来てくれる。
 O書店Hさんも。私「あんたとこが店だすからつぶれんねん!」。おみやげをいただく。ありがとう。
 ジミッチー、再来店。貴重なお休みなのにありがとう。

(平野)