週刊 奥の院 8.12

■ 半藤一利宮崎駿の腰ぬけ愛国談義』 文春文庫 570円+税 
 半藤が見た宮崎作品は二本のみ。宮崎が、かまわない、お目にかかりたいということで、最新作『風立ちぬ』を観る前と観てからの二回にわたって対談した。
 宮崎は半藤作品のファン。とくに『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫)を愛読。
 漱石の話から始まる。
第一部 悪ガキたちの昭和史  共通点は漱石好き  隅田川の青春と朝鮮戦争  日露戦争と建艦競争  狙われた半藤少年と「宮崎飛行機」  零戦と九六式艦船  日本は脇役でいい  ……
第二部 映画『風立ちぬ』と日本の明日  3.11のあとで  気の強い母・遊び人の父  とっつきづらかった堀辰雄  遅れてきた軍国少年の涙  ふたりの設計技師、二郎と本庄  美しい飛行機と軍部のノイズ  ……

「日本は脇役」より。

(半)つくづく思うのですが、この国は守れない国なんです。明治以来日本人はこの国を守るためにはどうすればいいかということを考えた。だれもがすぐ気づいたのは、「守れない」ということだということだったと思います。なにしろ海岸線が長い。しかも真ん中に高い山脈がダーッと背骨のように通っていて、国民のほとんどが海岸沿いの平地に暮らしている。ですから、敵からの攻撃に備えて人間を守るためにはものすごい数の軍隊が必要となるんです。……要するに防御はできない。ならばこそ、この国を守るためには攻撃だ、ということになったんですね。……ところが攻撃こそ最大の防御という考え方は、「自衛」という名の侵略主義に結びつくんですよ。

 軍艦・飛行機、当時としては世界一のメカだったかもしれないが、「残念ながらあらゆる意味で役に立たなかった」。
 近代日本の悩みは「守れない」ことと「資源がない」こと。敗戦後、この長い海岸線に原発をつくった。いまも武力による国防は無理。外交的話し合いで守るしかない。 
 世界情勢は東アジアの動向が大きく影響することになるだろう。

……
(半)いずれにしても日本が、この先、世界史の主役に立つことはないんですよ。
(宮)ないですね。ないと思います。
(半)また、そんな気を起こしちゃならんのです。日本は脇役でいいんです。小国主義でいいんです。そう言うと、世には強い人がたくさんいましてね、そういう情けないことを言うなと、私、怒られちゃうんですがね。
(宮)ぼくは情けないほうが、勇ましくないほうがいいと思いますよ。
(半)「腰ぬけの愛国論というものだってあるのだッ」と声だけはちょっと大きくして言い返すのですがね(笑)。へっぴり腰で。


 映画を観て。
 半藤は、今までの宮崎作品と全然違うと言う。大人を相手にした映画、ファンタジーの世界から抜け出して昭和を描いたという印象。
 宮崎、「この先はもうない……」。

(宮)じつはファンタジーは、今ものすごくつくりにくいんです。
(半)それはやっぱり3.11が影響していますか?
(宮)リーマン・ショックが来まして、時代の歯車が回り出したのに、いままでの発想ではダメだ。何かちがうものをつくらなきゃと思いました。今回の作品を準備している最中に3.11が起きました。関東大震災の絵コンテを描き終えた時にちょうど東北の震災が起きまして、ほんとうにどうしようかと思いました。
……


 半藤1930年生まれ、宮崎41年生まれ。戦争体験から「日本人は生きるためにいかなる意志をもち選択をなすべきか」という話に。半藤の問いかけに対する宮崎の答えは……。
半藤の「おわりに」より。

 一言でいえば、まさしく堀辰雄の小説『風立ちぬ』の題辞エピグラフ)そのものです。
 風立ちぬ、いざ生きめやも。
 お先真っ暗であっても、いや、真っ暗であることによって、人間はより生きる意志の強さや美しさや悲しさを知ることができる。若い人々よ、希望というもの、理想というものを捨てることなかれ、ということだと思います。それはまた宮崎監督の最新作の映画『風立ちぬ』の主題でもあるのです。……

スタジオジブリ出版部サイト。小冊子『熱風』7月号「憲法改正」はこちらで読めます。8月20日18時までです。
http://www.ghibli.jp/shuppan/np/


◇ うみふみ書店日記
 8月11日 日曜
 昨日分記載忘れ。関西出版界のドン・Kさん来店。
 桃さん、バイト時代に某書店で撤退経験ありと告白。

 さて、11日。(リ)池袋のKさん(もちGF)帰省中で来店。(リ)の内部でも大騒ぎだったそう。ほんまにお騒がせ。
 岡山からジミッチー夫妻。たくさんお買い上げ、『眼』まで。ありがとう。Mさん日記を久しぶりに渡す。近日中にまた来てくれるそう。夫人にデート申し込み。
 顧客さんの「残念、寂しい、悲しい……」の感想はたくさん聞くが、今日は「腰抜けるわ〜」。
 神戸人で現在高知在住の女性、ニュースを見て来てくださった。
 「なくなるのねえ? 神戸の宝なのにね」とおっしゃってくださったご婦人。ありがたい言葉だけど、これは言い過ぎ。
 鳥瞰図絵師、本日より始動。
 建築雑誌バックナンバー38冊も買ってくださる近所のご主人、台車ご持参。
 皆さん、ありがとうございます。
「直」仕入れの版元については8月末で販売を終了する。その旨掲示。各社への精算を効率化するため。「みずのわ」「SURE」「トランスビュー」「ミシマ社」、それに「荒蝦夷」も。
【海】が【海】でなくなっていく。

(平野)