週刊 奥の院 7.12

今週のもっと奥まで〜 
■ 島本理生 『あられもない祈り』 河出文庫 480円+税
 主人公〈私〉、幼い頃から自分を大事にできない。理不尽な義父、気まぐれな母。愛情と暴力の恋人。
〈私〉は年上の〈あなた〉と再会。婚約者がいる〈あなた〉に愛を告白される。
〈私〉は恋人と別れ、引越し。

……
 荷ほどきが終わった土曜日の深夜に、あなたは近所までやって来た。
 ひんぱんにあった連絡が、ここ数日途切れがちになり、会う約束を取り付けたのは私のほうからだった。
 部屋にあなたの気配が馴染んでしまうことが怖かったので、朝五時までやっているバーでお酒を飲んだ。
「式があったんですね」
 と喉が締め付けられるのを感じながら、訊いた。
 あなたは、うん、と小さく頷いてから、俺は、と付け加えようとしたのを遮って
「それでも私はあなたのことが好きです」
 あなたは予期していなかった待ち人がいきなり現れたみたいに、驚きと困惑をあらわにした。
 目を閉じて言い聞かせる。たしかに私は馬鹿だったし、遅すぎた。だけどここにたどり着くまでにはどの過程を抜かすこともできなかった。一からいきなり七には飛べない。
 互いに言うべきことがなくなって、二人で席を立った。
 タクシーを拾うために向かっていた大通りから一歩入ったところに、私たちは取り壊される寸前で放っておかれたままの公団住宅を見つけた。
 あなたは体の端々に酔いを滲ませながら、その一階の階段の隅までわたしの手を引いていくと、私の背を壁にそっと押しつけた。死んだコンクリートの清潔な冷たさが心地よかった。不足だらけの場所で、すべては不自然なくらいに滞りなく、あなたの積み重ねてきた経験を感じさえた。寒さに震えながら、スカートをたくし上げて、あなたは凍りついた左足を投げ出し、より体温を求めてほんの隙間さえもなく深く抱き合った。
 黒いタートルネックに覆われて熱い背中を抱きしめながら、私は、この感覚がなにかに似ているのを感じた。お互いの吐息だけがかすかに空気中に浮かんでは沈む。すべてが息絶えたようだった。
……

 この恋に先はあるのか?  (註、〈あなた〉はバイク事故で左足をケガ)


うみふみ書店日記 その28
 7月4日 木曜
 休み。「奥」と「ブログ」をすませ、妻の帰りを待つ。大坂城で「JUJU」コンサート。娘のプレゼント。
 昨日の朝ドラで、薬師丸ひろ子が「ジョジョ」と言ったそうで、私は今日「ジュジュ」です。
 聴衆は圧倒的に女性。
 
 7月5日 金曜
「奥」送信時に、朝ドラで薬師丸ひろ子が〜〜私は「ジュジュ」に、と報告。
GF・Yさんから、「ジュジュって、焼肉行くの? 大坂城ホールならコンサート?」。可愛いボケ突っ込みに、にっこり。
 M社Mさん日記、Iさんには届いていないそうなので送ってあげる。ならTさんにも届いていないでしょうから、帰りにJ堂に。
 
 7月6日 土曜
 ブログの準備をしていて、読んだことがあるなあと思いながら、書き上げて奥付見たら、古い本だった。前に紹介していた。同著者の新刊と間違えている。何の本かは、いずれ種明かしします。しっかし、わからんか〜? ほぼ一日かけて……!

 7月7日 日曜
 午前中は買い物。夕方から近くのホールで寄席。東西6人の師匠方。トリは桂雀々「代書屋」。
 
 7月8日 月曜
 万引き発見。店頭CD販売Kさんの協力。見覚えのない顔。一人暮らしの老人。いままでにもいっぱいやられているんだろう。暑い中おまわりさん4人。ご苦労様です。
 私の卑しい「あじゃりもち事件」を覚えてまっか? 休みに京都に行った同僚がわざわざおみやげに買ってきてくれた。恥ずかしい感謝。婆ちゃんが生きていたらきっと、ほっぺたつねられたでありましょう。(うみふみ書店日記その22、5.28付参照)

 7月9日 火曜
 調べ物があって紙版「奥の院」を見直していたら、213号が2回あった。おっさん、アホか〜! 次号より「第○○○号+2」と表示。「+2」とは2回目ということじゃ。
 GF・思想研究Oさん来店。

 7月10日 水曜
 灘のSさん来店。今日は私がレジにいる時間帯でゆっくりお話できなかった。それでも、カルチャーで女性たちと仲良しだそう(自慢?)、モテモテじいちゃん。
 ブログのネタが尽きてきた。待っている本が品切れ。
「平野殺すに刃物はいらん、スケベな本を止めりゃよい」
大喜利でこんなんありましたな。

◇ 先週のベストセラー
1.松本広章他  これでいいのか兵庫県神戸市  マイクロマガジン社
2.堤未果  (株)貧困大国アメリカ  岩波新書            
3.林真理子  野心のすすめ  講談社現代新書
4.百田尚樹  海賊と呼ばれた男(下)  講談社    
5. 同上           (上)
6.藤田伸二  騎手の一分  講談社現代新書
7.櫻井よしこ  日本の決断  新潮社
8.武藤芳照  転倒予防  岩波新書    
9.岡野雄一  ペコロスの母に会いに行く  西日本新聞社      
10. 渡辺淳一  愛ふたたび  幻冬舎           

(平野)