週刊 奥の院 7.4

■ 安井泉 編著 『ルイス・キャロルハンドブック  アリスの不思議な世界』 七つ森書館 2000円+税 
 安井は、1948年東京生まれ、筑波大学名誉教授、日本ルイス・キャロル協会会長。
 日本ルイス・キャロル協会はこちら。
http://www2.gol.com/users/kinosita/lcsj/
 ルイス・キャロル(本名チャールズ・ラトウィッジ・ドットソン、1832〜1898)、数学者で英国国教会聖職者。
(帯)より

不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の生みの親、ルイスキャロル
オックスフォードで教鞭をとる数学者であり、カメラ草創期に活躍した写真家でもある――さまざまな顔をもった生涯と作品世界の秘密を読み解く。

【はじめに】より

 ルイス・キャロルが生きた英国のヴィクトリア朝は、英国が大英帝国として最も輝いていた時代でした。社会のあらゆる変化がせわしく大きく動いていた時期でもありました。彼は数学の研究者として著書を何冊か書いていますが、それに加えて、少女たちを機知で楽しませる雰囲気をもっている人で、当時世に出始めた写真術ではアマチュアのカメラマンとして大学の一角に撮影スタジオまで作ってしまいます。動植物に造詣が深く、大学の改革路線に反対する気骨の人でもありました。さまざまなことの一つひとつに凝り性である性格が投影されていきます。最後の博物学者と言ってもよい人であったと思います。……


 学寮長ヘンリー・リデル(ギリシア語・英語辞書編纂)の子どもたちに聞かせた即興の話が「アリス」の原型。

1 キャロルの生涯  2 キャロルの作品  3 アリスの窓から広がる風景  4 側光でみるルイス・キャロルの万華鏡

楠本君惠 『アリス』の日本での翻訳 より
 初めて紹介されたのは1908(明治41)年、雑誌『少女の友』(実業之日本社)連載「アリス物語」。須磨子(永代静雄)翻案、絵・川端龍子
 12回連載だが、翻案といえるのは最初の3回だけで、4回目からは須磨子創作のお伽噺。

……特に後半は龍宮城を思わせるような宮殿が舞台となり、さまざまな試練を乗り越えたアリスが「真心と貞操と愛と忍耐」を持った女の鏡として月麿王の后となるシンデレラ物語になっています。キャロルの『不思議の国のアリス』からこのようなイメージが引き出されたことはたいへん興味深いことです。戦前まで強くあった日本の女性観・女子教育観が色濃く表れているからです。……

その後も、1910年丸山英観『愛ちゃんの夢物語』(内外出版協会)、11年丹羽五郎『子供の夢 長編お伽噺』(籾山書店)、20年楠山正雄『不思議の國 アリスの夢』、21年鈴木三重吉が雑誌『赤い鳥』に抄訳、などなど、それぞれが翻訳に工夫を凝らし、挿絵をつけている。
 27年には菊池寛芥川龍之介共訳『アリス物語』出版(この年、芥川自殺)。

……省略した部分はあるものの、言葉遊びを含めて丁寧に訳されています。置き換え、英語のルビ、説明、無視、都合良く辻褄を合わすなどのことば遊びの工夫を見ると、現代の『不思議の国のアリス』の翻訳の原型は、ここでほぼ完成していると考えていいように思います。


(平野)【海】と深い関係(ドロドロのズブズブ〜〜)K南大学N教授とイギリス文化研究・Kさんも執筆。