週刊 奥の院 6.29

■ 近代ナリコ 『女子と作文  Girls Write Alone 』 本の雑誌社 1500円+税
 近代(こだい)は1970年生まれ、編集者、文筆家。ミニコミ誌『モダンジュース』編集発行。著書、『インテリア・オブ・ミー 女の子のモダンにまつわるあれこれ』『本と女の子 おもいでの1960−70年代』など。
目次
大橋歩大橋歩である  大橋歩『トマトジュース』 
素人好みをもって、思うままを筆に  今井邦子の随筆
文化系女子の女学生時代  『オリーブ』「読者からの手紙」/『オリーブ・クラブ』
娘の手紙  今西博子『巴里より愛するママへ』/新田まり子『サヤの手紙』
舌足らずのラブレター  「恋愛貼込帖」
孤独の始末  左川ちか『左川ちか全詩集』
女の子はみんな詩人  清水哲男『あなたも詩人』/『愛のスケッチブック』/『“愛”ってなあに』
カバーガールたち  安井かずみ『空にいちばん近い悲しみ』/落合恵子『おしゃべりな屋根裏部屋』/ファッションページと女の子の詩
作文する妻たちの孤独  大村重子他『主婦』/『笑いを一樽 結婚についての214のお話』 

……ここにとりあげた本は、その書かれた時代も、書き手も、テキストのありかたもいろいろで、女性によって書かれたものへの私の興味の対象であることのほかに、共通しているのは、そのおおくが、いわゆる文学の領域とはべつのところで書いている人のものということです。
 そして、これらのおおくは、古本屋でみつけたものです。……

 全国で女子の古本屋さんが大活躍。古本の世界に〈女性もの〉というジャンルがある。一昔前は、

……どうみても時代遅れな料理本や手芸本、見ず知らずの書き手のエッセイでもなんでも、これは私がひろいあげておかねばならぬ、という半ば使命感のようなものにかられて夢中で漁っていた時期がありました。すると、そこからはそのときどきの、女性たちの欲望がみえ……

 近代は、『モダンジュース』で「女性の生活」をテーマにとりあげ、『本と女の子』では「女性が本を読むこと、買うこと、所有すること」=「女性の本のあつかいかた」をテーマにした。そして、本書は「女性が書くということ」を。しかし、それは「表現の中心=文学」ではなくて、はるか「周縁に位置するもの」ばかり。
文化系女子の女学生時代」より。
 明治末から大正、「文芸女子」は作品を雑誌『女子文壇』に投稿した。同誌には「誌友倶楽部」という読者交流欄があって、文芸投稿読者とは別の読者たちがペンフレンドを求め、絵葉書や本、手芸品の交換を募った。

……この時代、文学を欲望した女性たちに唯一ひらかれた発表の場であり、のちの『青鞜』との連続性も指摘される一方、『女子文壇』の運営を支えていたのは、「誌友倶楽部」目当ての読者たちの、文学に対するのとはまた別の欲求だったといえる。しかし、『女子文壇』の読者に、文学的とそうでない者にふたつの階層があったとしても、女が本を読むことさえ規範からはずれるとされた当時の女性たちがはじめてこれを手にしたのは、文学と、そのまわりにひろがっているかにみえた自由や解放の気配をかぎとったからではないだろうか。……

 近代は自らが愛読した『オリーブ』の投稿欄を思い出す。第29号から「読者からの手紙」というコーナーがスタート。ちょうど雑誌のキャッチフレーズが「Magazine for City Girls」から「Magazine for Romantic Girls」になった。読者層が女子大生から中高生へ若年化。当欄には女学生らしい手紙が増え、留学先からのものもあった。小さな雑貨を送ってくる読者も。〈かわいいモノ〉紹介、プレゼントコーナーになった。「フリーマーケット」になりそうだったが、〈かわいいモノ〉は姿を消す。編集部はテーマを決めてエッセイを募集、お便り中心の誌面に。その投稿集が単行本化、『オリーブ・クラブ』(マガジンハウス、1988年)。投稿欄も「Olive Club」に。

……手作りやかわいいモノ探し、旅行に留学、好きな本や映画について語ること、イラストや文章を書くこと等々、〈本編〉以上に、当時の、そしてその後の女子たちが夢中になった〈表現〉の詰まった投稿欄を眺めていると、さんざん言われてきていることとはいえ、『オリーブ』の文化度の高さに感心させられずにはいられない。

(平野)
女子にとって『オリーブ』の存在は大きい。