週刊 奥の院 6.20
■ 岩波書店編集部編 『これからどうする 未来のつくり方』 岩波書店 1900円+税
政治・経済・国際関係・社会・教育・科学・技術・文化・芸術・メディア……、さまざまな分野の228人が「これからどうする」を提案。
……私たちは将来の展望を描けないほど、閉塞感を深めているのではないか。向かうべき方角を見失い、深い森に迷い込んでいるのではないか。
「いまどうなっているのか」「これからどうなりそうか」
分析や予測は容易ではない。無数の情報・見解があふれている。しかし、「これから私たちはどうすべきか」という問いや議論は少ない。
本書は議論を始めよう、と言う。
手軽な答えはない。矛盾する主張や納得いかない処方箋もあるだろう。多様な問題提起、議論、自分の考え……、
小さな積み木を一つずつ重ねていくような営みを通じてこそ、これからの新しい時代を切り拓いていける。……
1 私たちはこれから
憲法九条を実行する 柄谷行人
開かれた多様性に基づく社会へ 緒方貞子
東アジアで生きる日本の責任 坂本義和
これから女性は……? 上野千鶴子
……
2 〈3・11〉は終わっていない 赤坂憲雄 河田惠昭 鎌田慧 飯田哲也 ……
3 政治を根底から問う 佐々木毅 片山善博 國分功一郎 豊下楢彦 ……
4 東アジアに生きる、世界に生きる 姜尚中 田中均 朴裕河 天児慧 ……
5 経済・労働・産業をどうする 伊東光晴 橘木俊詔 浜矩子 福原義春 ……
6 科学・技術の明日 池内了 佐藤文隆 畑村洋太郎 ……
7 文化・芸術のゆくえ 亀山郁夫 赤川次郎 佐伯泰英 コシノヒロコ ……
8 家族と教育の将来像 山田昌弘 尾木直樹 鳥飼玖美子 ……
9 私たちの社会はどこへ 佐藤俊樹 湯浅誠 結城康博 久米宏 ……
10 生き方の新しい形 平野啓一郎 北原みのり 関川夏央 田中優子 ……
柄谷行人
「歴史と反復」=国家と資本がそれぞれ反復的な構造をもっている。
……たとえば、一九九〇年以後は「新自由主義」と呼ばれているが、それは一八七〇年以後に生じた帝国主義の再版である。帝国主義とは、先進資本主義国で一般的利潤率の低下に追いつめられた資本が海外に向かい、それに伴って国家がその支配圏を広げようとするものである。それが帝国主義戦争に帰結することはいうまでもない。……
日清戦争時代、日本は「脱亜入欧」を選んだ。西洋列強と並んで「入亜」した。120年前の選択をやり直さねばならない。しかし、アメリカと中国の間で「脱亜・入亜」どちらも難しい。どうすればいいか?
実は、それは簡単である。国家が戦争を放棄すればよいのだ。日本の場合は憲法九条を実行すればよい。……これは憲法九条を護るということとは異なる。
「戦争放棄」を降伏や服従としてではなく、積極的な「贈与」として行うことが重要。
……戦争の放棄=贈与は、たんに一二〇年前の反復を避けて、それを新たにやり通すだけではなく、もっと普遍的に、世界史的な意味をもつことになる。おそらく日本はそれとは逆の道をたどるだろう。が、結局は、それに行き着くことになる、ただし破滅のあとに。
さあ、「これからどうする」?
(平野)