月曜朝礼新刊紹介
【文芸】 クマキ
■ 『山本周五郎長篇小説全集』全26巻 新潮社
第1回 第1巻、第2巻 樅ノ木は残った (上・下) (上)1700円+税 (下)1800円+税
○ 長篇・中篇27作品。
○ 全作品に脚注。古語、風俗、しきたり、地名・場所など。
(読み飛ばして終わりにしてしまいそうな語句を説明してくれる)
○ 作品舞台の地図、人物関係図。
○ 人気作家によるエッセイ〈山本周五郎と私〉、今回は山田太一。
○ 研究者による作品論、今回は縄田一男。
○ 「名言しおり」
装画 宇野信哉
【芸能】 アカヘル
■ 山本信太郎 『昭和が愛したニューラテンクォーター ナイトクラブ・オーナーが築いた戦後ニュー・ビジネス』 DU BOOKS 2500円+税
1959年12月赤坂にオープンした本格的ナイトクラブ。“東洋一のナイトクラブ”と言われ、皇族から財界人、芸能人、ヤクザまで著名人が集まった。「力道山事件」の現場として有名。89年5月閉店。本書はスキャンダラスな事件ことではなく、ショービジネスの側面を詳しく。
2007年、山本は同クラブの歴史を出版した(『東京アンダーナイト』廣済堂出版)。09年、自宅倉庫から大量の録音テープを発見。かつて出演した歌手たちのもの。聞いてみると状態が良い。テープが劣化しているので、廣済堂に相談してデジタル化してもらう。
出演メンバー、トリオ・ロス・パンチョス、ナット・キング・コール、サミー・デイヴィスJr.、ヘレン・メリル、ミルス・ブラザース、トニー・ウィリアムス……。
録音状態が良いのは、建物の設計者とクラブの音響担当者の努力のおかげ。聴くうちに、歌手たちの選曲素晴らしさやトーク・日本語による歌唱など、工夫をこらしたステージが蘇ってきた。一人で楽しんでいたのだが、「これを皆さんに聴いてもらおう」と思い立った。
ロサンゼルスでCD化を計画。現地の人たちが絶賛し、協力。
10年7月、「New Latin Quarter Presents “THE JAZZ & BLUES COLLECTION Vol.1”」発売。
1 戦後音楽史を飾る貴重な未発表ライブ音源発見
2 戦後ポピュラー音楽の発展とナイトクラブショー
3 ビッグミュージシャンたちの舞台裏
4 「ショー」と「商」のはざまで
巻末付録、接客心得、メニュー、出演アーティストと来客者の一覧も。
【児童】
■ ミラ・ローベ作 塩谷太郎訳 『リンゴの木の上のおばあさん』 岩波少年文庫 640円+税
ミラ(1913〜95)はオーストリアの児童文学作家、ユダヤ人。パレスチナに亡命、戦後ウィーンに移住。51年『インズープ』でデビュー。本書は65年出版、オーストリア児童文学賞、ウィーン児童図書賞受賞。邦訳は69年、学習研究社より。
自分にはおばあさんがいない、とさびしく思っていたアンディ。いつものようにリンゴの木に登ると、そこにはふしぎなおばあさんがいました。…… (カバーのあらすじ紹介文)
【人文社会】
■ 木村元彦(ゆきひこ)、園子温、安田浩一 『ナショナリズムの誘惑』 ころから 1400円+税
我われは、村上春樹が言うところの「安酒の酔い」――すなわち、安易な排外的ナショナリズム――に飲まれているのだろうか?……
(領土を奪われた。経済大国の座を奪われた。“北”に安全を奪われている。テレビ・クルマの販売シェアを奪われた。“在日”によって富が奪われている)
虚実入り交じった「現実認識」が、人びとの焦燥感を駆り立てる。
(ヒトラーは「ユダヤ人を殺せ」とは言わなかった。「ドイツの富が奪われている」と言った。日本は、欧米列強の経済制裁によって民族が滅ぶと怖れた結果、数百万人の死者となった)
「安酒」をあおって嫌なことを忘れたい「誘惑:」にかられるのは、特別なことではなく、国家と言う枠組みの中で生きる人なら、誰もが経験することだ。
ただ、その「誘惑」にかられたとき、思いとどまるのか、あるいは飲み干すのか、判断するには「言葉」が必要となるはず。……
3人の「言葉」に耳を傾ける。
木村はフリージャーナリスト、旧ユーゴの民族差別を取材。
園は映画監督。『BAD FILM』は高円寺を舞台に日中の民族グループが対立するフィクション。
安田は『ネットと愛国』(講談社)の著者。
(目次)
鼎談 「民族はフィクションだ」
象徴にされた「尖閣」 木村
メイキング・オブ・『BAD FILM』 園
日中韓の「ネトウヨ」は同じ夢を見るか? 安田
隣人を「悪魔化」して高揚する愚かしさ 木村