週刊 奥の院 6.17

■ 文藝別冊澁澤龍彦 増補新版』 河出書房新社 1200円+税 
 増補されたのは、
○ 澁澤龍子ロングインタビュー(2013.5)
○ 安藤礼二  編集と博物誌
 インタビューより
一九七〇年前後  常に変わっていった人  自分本位の生き方と編集者的センス
職人=プロとしての意識  物に淫せず、竹を割ったような  嫉妬心や猜疑心から遠く

……
 澁澤の伴侶として重荷に感じたことは、これまで一度もありません。それはまったくない。私にとっては、特別な人でもなんでもないし、普通の男の人ですから。ただの旦那、そう言うとおかしいけど、それにすぎない(笑)。……
 澁澤と結婚していちばんよかったのは、私のなかから、人に対する嫉妬心というものがなくなったことです。もともと、そんなになかったけれども。だから、人がうらやましいということもない。
 そして猜疑心というものもない。猜疑心を、一度も感じさせなかった人。
 やっぱり、飽きない相手でした。それは面白いですよ。毎日遊んでいるようなものですから。愉しかったですよ。毎日のように喧嘩もして、面白い、愉しい日々でした。……

「汲んでも、汲んでも涸れない井戸のような人でしたから」

 安藤は元河出書房新社の編集者。本書旧版を編集。河出を志望したのは同社が澁澤の著作を文庫化していたから。
「私の編集者としての人生は澁澤さんに始まって澁澤さんで終わったのです」

■ 『こころ』 Vol.13  平凡社 800円+税 
特集 串田孫一の時間
○ 美枝子夫人が語る“孫一の素顔”
○ 安野光雅  串田家を数十年ぶりに訪ねて
寄稿  堀江敏幸中村桂子竹西寛子辺見庸

 串田孫一(1915〜2005)、哲学者、詩人、随想家、翻訳家、山岳文学者、音楽演奏家……。
 夫人とは1941(昭和16)年4月お見合い結婚。

……最初に会ったとき、孫一は大学(東大)の哲学研究室の副手でした。親は遅く生まれた一人息子ですから干渉せず、好きなことをやらせようとしたんでしょうね。フランス哲学を選んだのは、銀行家のお父さんとは違うことをやりたかったんでしょうか。……大学に入ってからはラテン語ギリシア語をやってみたけど、長続きしなかったようです。中村元さんのいるインド哲学の研究室がすぐ近くで、そこにも顔を出してみたけれど、まったく歯が立たないと諦めたようです。……
 そのころ学会で『哲学雑誌』の編集をしながら、『冬夏(とうげ)』という同人誌を作っていました。だから編集者としては年季が入っているんです。それで『心』(小誌の前身)も最後まで任されたんでしょうか(一九七六〜八一年)。
(『心』の同人は歴史上の人物のような学者、作家ばかり。森有正谷川徹三小宮豊隆武者小路実篤……)
 皆いいおじいさんで、偉くなっても書生っぽのまんまでした。……

 本誌の表紙カットと【表2】の文章は毎回「串田」のもの。

(平野)