週刊 奥の院 6.15

 ちくま文庫の新刊
■ 桂吉坊がきく藝』 820円+税 
 桂吉坊(きちぼう)、1981年西宮市生まれ。99年故桂吉朝に入門、米朝のもとで内弟子修業。受賞多数。
 本書は、雑誌『論座』連載、09年朝日新聞出版刊。
 10人の名人・師匠に話を訊く。
 小沢昭一茂山千作市川團十郎竹本住太夫立川談志喜味こいし、宝生閑、坂田藤十郎伊東四郎米朝
 時の流れははかないもの、4人の方が亡くなられた。
小沢昭一

 (萬歳について)
(小沢)僕らは調べるといったって、やっぱり自分が芸人だからやってみないと分からない。実際にやると、なるほどなーといろいろ分かるんですよね。だから別に修業するとか、そんなんじゃないんだけど、ほんの真似事で尾張の萬歳師さんの長老にくっついて回るんだけどね。でも僕がそうやってやったころ(1970年代)は、もう迎える方も何だか分からないの、萬歳が来たというのが。怪しまれて110番されたり、いろいろなことがありました。なあ。ごくまれにおばあさんが出てきて、これは昔からあるものよなんて言って、上がってゆっくりやってください、なんて言われることもあったけれども、こっちはそれ程長くやれないの。……
(落語家になろうとは思わなかったのか?)
(小沢)(10代から20代にかけて、落語、新劇、剣劇、歌舞伎と、何でも見るうちに新劇が面白かった)……でも落語には僕は恩義を感じているようなところがあるんですよ。学校でも軍国主義の教育をされるし、それに疑問を持たずに育ってしまう。それが敗戦になった途端に価値観の大変動で……(略)……そのときふっと、ああ、落語だなと思ったのよ。落語という、トンネルで軍国主義から自由主義の世界に僕はくぐり抜けられたという感じがあって、落語には感謝しています。



■ 穂村弘 『絶叫委員会』 680円+税


「絶叫委員会」では印象的な言葉たちについて書いてみたいと思います。
 映画や小説の名台詞、歌謡曲の歌詞、日常会話、街頭演説、電車の吊り広告の見出し、怪しいメール、妻の寝言など、いろいろなところから言葉を拾ってくるつもりです。……

 無名の人たちが放つ名言、詩……、それらを聴きとる歌人
 例によってパッと開いたページ。

「友だち同士」
「俺さTシャツないんだよ」  「俺あるよ」
「嘘まじ?」  「うん」
「Tシャツだよ」  「うん、Tシャツ」
「あるの? Tシャツ」  「めちゃめちゃあるよ」
「1個くれよ」  「うん、やだ」
「2軍でいいからさ」

……全ていいけど、やっぱり「2軍」が素晴らしい。友だちのTシャツに「1軍」と「2軍」があることに勝手に決まっているのか。いいなあ、私もその世界で生きたかった。このような会話全体がたわいなさと意外性の光で包まれている。光の源にあるものは「不定型で無限のミライ」ではないだろうか。それが彼らの「今、ここ」の言葉を照らしているのだ。……


他には
張競 『中華料理の文化史』 780円+税
グレゴリ青山 『旅のグ 2』 760円+税
......
学芸文庫
今福龍太 『山口昌男コレクション』 1900円+税
日高敏隆 『人間はどういう動物か』 840円+税
......
(平野)