週刊 奥の院 6.14

今週のもっと奥まで〜   
■ 藍川京 『梅雨の花』 幻冬舎アウトロー文庫 533円+税
 官能短篇集。夫の借金のために愛人契約をした人妻。主の留守中、お嬢様育ちの新妻の世話をする爺や。師匠と深い仲だった女弟子のもとに、成長した師匠の孫が訪ねてくる。……ふつうなら表題作を紹介するのだが、今回は別のを。他のはいやらしすぎて引用に困る。
「遺された記憶」
 主人公智佳。父は母の一周忌をすますとすぐに再婚。長いつきあいの女性がいた。母の日記を読んでいると、結婚前に好きな人がいたとわかる。旅館の後継ぎで、周囲が反対した。智佳は日本海の町を訪ねるが、既に旅館は廃業。近所の婦人が息子(道孝)さんと連絡をとってくれる。電車で4時間の町で陶芸をしている。彼は母の名を知っていた。智佳は自分でも訳もわからないまま、その町に向かう。

……
「母を知っているんですか……?」
「写真で見たことがある。最後にあなたが改札から出てきて、写真とそっくりの顔で驚いた」
「なんだか……現実じゃないみたい」
「俺もそう思っている」
……
 昔、心を寄せ合った男と女のそれぞれの子供が、今、三十年以上の年を経て、隣り合って話している。智佳は三十二歳、道孝は三十四歳だ。
(古い民家、工房もある。作品を見せてもらう。茶碗をプレゼントしてくれるという)
「旦那さんには何て言ってきたんだ」
「まだひとりなの」
「じゃあ、ここに泊まっていけるのか」
(戸惑う智佳)
「無理にとは言わない。でも、泊まってほしい」
 智佳はコクッと喉を鳴らした。
「いいのね……?」
(風呂から上がって、また話。同じ部屋に布団を敷く)
「兄弟はいないのか?」
「ひとりっ子よ」
「どうして結婚しないんだ」
「あなたこそ……」
「今まで一緒に暮らしたいと思う女性に巡り会わなかった。でも、今はちがう」
「いい人に巡り会ったの?」
「ああ」
「いい人って……どんな人?」
「親父が好きだったのに結婚できなかった女性の……その人の娘だ」
「母は好きな人に一度も抱かれることがなかったわ……私は後悔したくないわ……今日会ったばかりなのに、あなたのことが好き……」
 ようやくそう言うと、乳房が大きく波打った。……

うみふみ書店日記 その24
 6月6日 木曜
 休み。「神戸新聞ブッククラブ」の当番原稿、385字。どうやって誤魔化すか。
 
 6月7日 金曜
ダ・ヴィンチ』7月号、「震災と出版」で仙台編集者対談。彼らが企画した「東日本大震災を被災地から読む」について。フェアの写真は【海】。アホ面平野がなぜか出しゃばる。
 夜、GFパソコン先生に来てもらって修復。

 6月8日 土曜
 休み。妻とランチ。買い物はつきあいきれないので、食料だけ買って先に帰宅。途中、野菜購入。
 息子に宅急便。

 6月9日 日曜
 連休の予定が、バイト君不足で出勤。
 
 6月10日 月曜
 郄田郁さん、新刊にサイン入れのためご来店。秘書役の編集者さんも。
 みをつくし料理帖『残月』(角川春樹事務所、文庫)。
 【海】のことをいつも気にかけてくださって、本当にありがたいこと。
 執筆中の作品が山場で、時間がないのにわざわざ、しかも予定時間を大幅に延長。
 冊数が多いし、私たち話をしたいし、郄田さんもお話好きだし。
 ほんでね、今後の予定など、こちらが訊いていないことまで喋らはって、「秘密ねー!」と言いながら、ご自分は今回のストーリーの一部を話そう話そうとするので、みんなで、「だまれー! しゃべるなー!」
 本は14日発売。

 6月11日 火曜
神戸新聞」書評欄に載る「KBC神戸新聞ブッククラブ)」の当番原稿の確認。

 6月12日 水曜
 故成田一徹さんの展覧会と切り絵作品の商品化について、ご家族と【海】で何やら進行中。開催日は? 内容は? 発表はいつや?

◇ 先週のベストセラー
1.石井桃子  家と庭と犬とねこ  河出書房新社
2.百田尚樹  海賊と呼ばれた男(上) 講談社     
3.同上            (下)
4.南川高志  新・ローマ帝国衰亡史  岩波新書      
5.森見登美彦  聖なる怠け者の冒険  朝日新聞出版
6.田辺眞人  子どもたちに伝えたい灘の歴史  神戸新聞総合出版センター
7.近藤誠   医者に殺されない47の心得  アスコム
8.丹羽宇一郎  北京烈日  文藝春秋      
9.      神戸ルール  中経出版
10. 藤田伸二  騎手の一分  講談社現代新書

(平野)