週刊 奥の院 6.5
■ 廣岡徹 文・写真 『ひょうご文学散歩』 神戸新聞総合出版センター 1600円+税
兵庫教育大学を3月退官、現在は同教職大学院客員教授。
兵庫県下を舞台にした文学作品の数々。65作家、76作品を紹介。
【神戸】
『花の降る午後』 宮本輝 『星を売る店』 稲垣足穂 『孤愁 サウダーデ』 新田次郎 ……小泉八雲、西東三鬼、コミックも。
【阪神】
『遺留品』 山崎豊子 『ホリュ・デ・ボーイ』 三浦哲郎 『爺捨の月』 田辺聖子 『砂の城』 遠藤周作 …… 村上春樹、小川洋子、『涼宮ハルヒ』に『阪急電車』。
【播磨】
大岡昇平、松本清張、三島由紀夫、城山三郎、吉村昭 ……文豪が並ぶ。
【但馬】
志賀直哉、山田風太郎、新田次郎、玉岡かおる。このラインナップもすごい。
【丹波】
河合雅雄・隼雄、三枝和子。
【淡路】
谷崎潤一郎、船山馨、吉屋信子、灰谷健次郎、阿久悠。
神戸はモダニズムあり外国人あり、阪神は当代の人気作家を抱え、播磨・但馬では歴史の重みを感じる。丹波の学者兄弟は「文学」に入れるべきか? 淡路も人材豊か。
残念ながら新刊本屋にない作品が多い。売れっ子・玉岡のデビュー作も、石川達三の芥川賞受賞作もない。
『蒼氓』 石川達三 神戸市中央区山本通
「三ノ宮駅から山ノ手に向う赤土の坂道はどろどろぬかるみである。」 (「ぬかるみ」に傍点)
その坂を上りつめたところに国立海外移民収容所があった。
昭和五年の話である。ブラジル行きの移民たちは、船に乗るまでの数日感を過ごすために神戸の収容所に集められた。と同時にここで篩い落としがなされた。
……
八日目の朝、九百人の移民の列が坂道を降りて行った。
当時、政府の推し進めた海外移民政策は、何の定見もない、現代に至って「棄民」とまた称されるものであった。……
世界恐慌の影響で失業者があふれ、農村は崩壊。食い詰めた人たちは祖国を捨て海外移住のため神戸に集まってきた。
収容所は保存されていて、「海外移住文化の交流センター」となっている。
石川の文章にある「三ノ宮駅」は今の「元町駅」の場所。昭和6年高架工事が完成してに移転。3年後に「元町駅」が新設された。
三島の『仮面の告白』に加古川が登場。三島の本籍地で徴兵検査を受けた。地元の玉の緒地蔵尊に「慰霊の碑」が建てられている。
(平野)