週刊 奥の院 5.30

【雑誌】 
■ 芸術新潮』 6月号 新潮社 1429円+税
特集 夏目漱石の眼

夏目漱石の小説には、古今東西のさまざまな名画が登場することをご存知だろうか?
ロンドンで本格的に美術に目覚め、帰国後も美術展に足繁く通い・・・・・・
漱石が居を定めた東京は政治経済のみならずそのころ文化的にも近代化のただなかにあって、そんな美術展や博覧会がすばらしく活況を呈していた。


1. 名作をいろどる絵画たち 
2. 漱石とゆく、ぶらり明治の東京散歩
3. 技あり「漱石本」総覧
4. お手並み拝見 先生の書画


夏目房之介「趣味の効用」より
 

 漱石は胃を病んだ。
 不安神経症で強迫妄想をもった人間が、大学の教員仕事に耐えかね、初めは趣味で始めた小説を本業にした。趣味であった限りで小説は、彼のうっぷんを晴らし、解放感をもたらしただろう。『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『草枕』の飄逸はそれだ。
(新聞連載という「本業」は、自己のコンプレックスに向き合う過酷な作業、胃が痛み・・・・・・)
 けれど、彼は趣味人でもあった。書画を好み、俳句をひねり、漢詩を書き、欧州では美術館を好んで見て回り、お能も好きで、謡を少し習った。落語も好きだった。本来は、江戸趣味人的な流れを汲む風流趣味の世界に憧れるタイプだったと思う。・・・・・・

 趣味と健康のこと、趣味の“レベル”についても。


■ 文藝別冊 大島渚 〈日本〉を問いつづけた世界的巨匠』 河出書房新社 1200円+税 
◎未発表講演・対談、単行本未収録エッセイ
(講演) ニューヨーク1972
(対談) ×アレクサンドル・ソクーロフ 「母・家・日本」
(エッセイ) 『日本の夜と霧』と「新演」の人びと  変革の論理を

 ベルナルド・ベルトリッチ、ヴィム・ヴェンダースの弔辞

 同時代を生きた映画人たちによる語りおろし、書きおろしがズラリ。まさしく”追悼本”。

 
 篠田正浩インタビュー

――いま振り返って、大島さんとはどういう方でしたか。
(篠)一九五四年からですから、正確には五九年の付き合いです。ものすごくクローズしたり離れたりしながら、・・・・・・最後に彼は『御法度』をつくって僕は「スパイ・ゾルゲ」をつくった。二十世紀はテレビと共産主義の戦いでした。大島はその二つを映画にすることでコミットした男じゃないかな。
(テレビというメディアで名前を売った。映画ではコミュニズムを抱え込んだ)
僕にとっては、二十世紀文明のまっ只中で天皇を現人神にした日本人の共同幻想が重要でした。だから大島とは座標軸がまるで逆だと思うですけど、どうも出発点は同じじゃないかなと思うんですね。だから大島の死に弔辞を読んでくれと小山夫人に言われた時に、やっぱり僕が読まなきゃいけないと思った。
・・・・・・
――優しい人だったんですか。
(篠)優しさと共に、烈日の批評精神の両刃を使い分けていたのです。彼はコミュニズムの矛盾、悲劇的な結末を自覚していた。深い絶望をかくしていたと思います。・・・・・・

 大島の子息が篠田と仕事をすることになった。小山夫人が言った。
「篠田さんは大島とちがって十倍人がいいから安心して仕事ができるわよ」


■ ユリイカ』 6月号 青土社 1238円+税 
特集 山口昌男――道化・王権・敗者
“知”を言祝ぐ
○軽業としての学問  高山宏 中沢新一
山口昌男」以前
大隅和雄子安宣邦西江雅之磯崎新
道化の読み方
○道化と幻想絵画  山口昌男
山口昌男と/にみた夢
高山宏、今福龍太、四方田犬彦池内紀上野千鶴子 ・・・・・・
学問はやがて愉しき
赤坂憲雄、東ゆみこ、春日直樹成田龍一、大槻隆寛 ・・・・・・
”山口山脈”登攀案内
主要著作目録+解題  略年表

(平野)