週刊 奥の院 5.6

『文豪の家』  監修 高橋敏夫 田村景子 エクスナレッジ 1600円+税 
 
 各地の文学館が独自の活動で賑わっている。


……経済不況がつづき、市町村では財政難から文化的事業の縮小、切り捨てがすすむ。そうした逆境にあって文学館の健闘はめだつ。
 これは逆境にもかかわらず、ではなく、逆境ゆえではないか。文豪、とりわけ近代の文豪たちは、それぞれ日々の逆境、苦境に言葉でもって立ちむかってきたからだ。文豪は、いわば苦悩の達人であるとともに、苦悩を生きるつよさ、悦びへと転換する、心の達人にして言葉の達人であった。
 そんな文豪を生きいきと実感したい。
 活字で作品を知れば知るほど、文豪たちの日々の苦悩と悦びと創作の「現場」をたしかめたいと思う。…… (高橋)


 太宰治の家【斜陽館/旧藤田家住宅/津島家新座敷】
 生家は【斜陽館】(青森県五所川原市)の名で一般公開。
 太宰といえば、「破滅型文士の典型」。「家への反発」は大きかったと想像するのだが……。

 生家にむけた思いを反撥の一色で塗りつぶすことはとうていできない。家長ということばに象徴される「家」の重みは、愛憎あわせて太宰文学の礎石となっていたことは否定できないだろう。

 太宰が初めて美智子夫人を生家に連れてきたときの彼の高揚ぶりを、夫人が書いている。
 

かねて聞いていたよりも何倍も豪壮で、びっくりしましたと答えても、まだまだ不満らしく、腰を抜かしそうですとでも言ったらよかったかもしれません。

【藤田家住宅】(弘前市)は太宰が弘前高校時代止宿した。「太宰治まなびの家」として一般公開。
【津島家新座敷】」(五所川原市)は太宰一家が疎開中暮した生家の離れ。一般公開。

 夏目漱石の家【漱石鴎外旧宅/第三旧居/内坪井旧宅】
 石川啄木の家【齊藤家/本郷喜之床/新婚の家】
 江戸川乱歩の家【旧江戸川乱歩邸】
 他36人、62カ所。
 県下では、
 谷崎潤一郎「倚松庵」(神戸市東灘区)  1935年結婚した松子夫人と暮らした家。ベルギー人から間借り。夫人一族が『細雪』のモデル。
 富田砕花「旧宅」(芦屋市) 谷崎が松子と新婚生活を始めた家。39年富田入居。

 富田砕花は芦屋で永く暮らし、近隣の学校の校歌を多く作詞する。県内の風物を『歌風土記』に並べ、『兵庫賛歌』もまとめた。高校野球に情熱を向け行進曲の作詞もし、甲子園球場へ通いつめた。地域と密着し、地域からも愛された稀有な詩人といえよう。……

 柳田国男「生家」(神崎郡福崎町)
 

日本一の小さな家……この小ささ、という運命から私の民俗学への志も源も発した。

(平野)
■ 青山大介 『港町神戸鳥瞰図 2008』 くとうてん 
初回限定版 3000円+税  通常版 2200円+税 
青山大介さんサイン会 5.18(土) 13時〜15時 【海】にて