週刊 奥の院 4.30

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特集 上京・東京・懐郷
郄山文彦 帰ってくる  柴崎友香 巨樹の街で  鴻上尚史 東京へ  
佐々木幹郎 猫とともに「都落ち」 山本一力 うっかり気を抜くと 他
上京する文學』(新日本出版社)の著者、岡崎武志は「出久根達郎」のことを書く。
ここが私の東京〜続・上京する文學 出久根達郎の「月島」
 出久根は古書店「芳雅堂書店」店主で直木賞作家。1944(昭和19)年茨城県行方(なめかた)郡北浦町生まれ。59(昭和31)年3月集団就職で上京。
 実は「集団」ではなかった。一人だけ遅れて。当時各世帯に配布されていた「米穀通帳」(身分証明書でもあった)の手配が間に合わなかったため。

……
「中学3年の3学期には就職、農家の跡継ぎ、進学組の三つに分かれ、就職組には1月末に求人先の所在地と屋号、待遇などが書かれた一覧表が配られました。希望を決めると指定の日に職安で雇い主の面接を受け採否が決まります。筆記試験はありません」(朝日新聞)2011.7.2付「昭和史探訪」)

 出久根は月島「文雅堂書店」を新刊書店と思っていた。田舎には古本屋がなかった。出久根少年にとって「東京」は修学旅行で訪れた上野、動物園、西郷さん。そして、歌謡曲

……「東京歌曲」(昭和二十五年)、「東京シューシャンボーイ」(昭和二十六年)、「東京だよおっ母さん」(昭和三十二年)、「有楽町で逢いましょう」(昭和三十三年)と、きらびやかなネオンに映し出されるモダンシティの風景を、「東京」を舞台にした歌たちは謳いあげた。これは、東京在住者より、むしろ地方にいて東京に憧れる若者たちを大いに刺激したのである。
「このころの東京の歌はね、どれも『東京へ行こう』っていう歌でしょう。みんな謳われた世界が華やかで、やっぱりその気になるんですよ。『あこがれの花の都』ですよ」

 7時半起床、8時開店、夜10時まで仕事。食住は店、月1日休み、月給3000円、半分を仕送り。

……
「偉いですねえ」と私が言うと、出久根さんは首を振り、「それが普通なんですよ。子どもを集団就職で家から出すということには、働き手となって親の生活費を面倒見るという意味も入っている。……

 月島は東京の中心から見れば「川向う」の町=異界。関東大震災でも空襲でもほとんど被害を受けていない。

……明治の名残を路地に漂わせながら、一方で近代化していく月島。何も知らなかった茨城の少年が、多くの人や本に触れ、「東京の不思議な一画」を遊泳することで作家的感性を養って行く。

 73(昭和48)年独立して高円寺で開業。月島に似た下町。
「私は、土地の縁というものを、考える。人は無意識に、自分の生まれた故郷を求めているのかもしれない」(出久根『いつのまにやら本の虫』)

 
 第二特集「どうなる、歌舞伎
 重松清「このひとについての一万六千字」 装丁家鈴木成一


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(平野)