週刊 奥の院 4.21

■ 加藤郁乎編 『荷風俳句集』 岩波文庫 940円+税
自選 荷風百句 
俳句
狂歌
小唄他
漢詩
随筆
写真と俳句
〔注解〕〔解題〕 池澤一郎
〔解説〕 加藤郁乎
初句索引

「自選 荷風百句」より。
28 行春やゆるむ鼻緒の日和下駄  ゆくはるや ゆるむはなをの ひよりげた
〔注解〕 ◎『日和下駄』(昭和三二年三月一五日、私家版) ●日和下駄 差し歯の短い晴天用の下駄。荷風は『日和下駄』『濹東綺譚』などでこの下駄の効用を記す。

29 春惜しむ風の一日や船の上  はるをしむ かぜのひとひや ふねのうへ


 加藤は昨年5月逝去。
〔解題〕より。

……本書の内容構成はほぼ整えられた後の事であった。『俳句集』と題しながらも、狂歌漢詩・江戸音曲の詞章さらには高雅な俳趣掬すべき五篇の随筆までを集成して、荷風の詩藻の全貌を窺おうとする編者の手腕には舌を巻く他はあるまい。……


■ ヨーゼフ・ロート 池内紀訳 『聖なる酔っぱらいの伝説 他四篇』 岩波文庫 940円+税 
 
 放浪のユダヤ人作家ロート(1894〜1939)の寓話集。オーストリア領〈現在ウクライナ共和国〉ガリチア地方生まれ。ウィーン大学在学中、第一次世界大戦で東部戦線。フランクフルト新聞記者、1922年から創作開始。33年、ヒトラーが政権につくと亡命の途に。ヨーロッパ各地で身をひそめ、パリで死去。表題作は絶筆。
 主人公はセーヌの橋の下に住む浮浪者。奇特な紳士が200フランくれる。浮浪者の弁。

……こうみえても誇りってものがありますぜ。見そこなってもらいますまい。いただくわけにはまいりませんね。第一に、おまえさんはとんとお見かけしないおかただ。第二に、いつ、どうしてお返しできるやら、まるっきり当てがない。第三に、おまえさんはどうやって催促しようっていうのかね。おいらは宿無しだ。日によって橋の下のねぐらがちがう。そんなしがない男だが、いまも言ったとおり、誇りってものがありましてね。

 紳士は、お金ができたらサント・マリー礼拝堂におさめろと言う。浮浪者は礼拝堂まで行くのだが……。

(平野)