週刊 奥の院 4.13
■ 坂崎重盛 『粋人粋筆探訪』(すいじんすいひつ) 芸術新聞社 2400円+税
古本屋巡りから始まった戦争直後の文化探訪。本書は「本の群れの囁きから生まれた」。坂崎自身、なぜ高校生のころからこれらの本を買い読み溜め込んでいったのかがわからない。「戦後の豊かな人間賛歌の花園巡り」と同時に、「自分探訪」の一冊。
……
軍国的抑圧から人間賛歌へ――。
今日、あらためてふり返ってみれば、戦後、いかにも遊び心に満ちた、人生そのものを楽しんでいるようなオトナが排出した。……
社会が、自由に楽しく生きるオトナの文化を必要としていたのだろう。文化人タレントの出現である。当然、彼らは単に遊戯的な感覚(センス)だけではなく、自らが強いられていた体制への批評眼・風刺・反骨の志を抱いていた。
性的なことがらの解放も、エスプリ、ユーモア、反体制と、よく似合う。戦時中の軍国的な制服から、戦後、自由社会の性服を身にまとった文化・風俗が社会に踊り出る。……
PART1
○ まずはご本家、人気シリーズ『粋人酔筆』を訪ねる
○ なんなんだ? この版元、粋人粋筆本を続々刊行
○ 清水昆の絵は粋筆集によく似合う
○ 杉浦幸雄、神保朋世――女体を描いて「いずれかあやめ かきつばた」
PART2
○ 性風俗熱烈探究雑誌「あまとりあ」な人びと
他、徳川夢声、平山蘆江、安藤鶴夫、直木三十五、岩田専太郎 ……
PART3
「漫画読本」、東郷青児、今東光
PART4
辰野隆、獅子文六、岩佐東一郎、矢野目源一、田辺貞之助 ……
PART5
高橋義孝、丸木砂土、奥野信太郎、池田弥三郎、高田保 ……
エピローグ的に――♬あんまりぃ長いのはおめめのお邪魔です
『粋人酔筆』という本があった。昭和27年10月初版、内外タイムス社編集、日本出版協同株式会社発行。軽装本の随筆集。表紙は寺田政明(洋画家、俳優・寺田農の父)。執筆者、丸木砂土(まるきさど、好色文学翻訳、「東宝」社長)、本山荻舟(てきしゅう、医師、食と小唄)、矢野目源一(仏文学、詩人)、宮尾しげを(漫画家、江戸風俗)、吉田機司(きじ、医師、川柳)、石黒敬七(柔道家、がらくた収集、芸能人)、峰岸義一(洋画家)、平山蘆江(花柳物作家、小唄)。続刊、田辺茂一、岩佐東一郎、平野威馬雄、渋沢秀雄、小島政二郎らが加わった。
書名はその本から。
戦前、昭和初期の予約出版や地下出版系に活躍したエロ・グロ・ナンセンス派とは別に、敗戦後の、学者、文士、画家、芸人、医者,趣味人の中に、どちらかというと、遊び半分ぽいというか、上下(かみしも)脱いだ、軟派系や脱俗系の文章を書いてきた数奇者たち。彼らの随筆的文章。
(帯)このひとたちを忘れては、あまりにもったいない!
(平野)