週刊 奥の院 4.12

 今週のもっと奥まで〜 

■ 江國香織 『はだかんぼうたち』 角川書店 1500円+税
 主人公・桃、歯科医。父の医院を継ぐ。6年間交際し結婚するつもりだった男性と別れ、年下の鯖崎と付き合っている。親友の響子は専業主婦、子ども4人。鯖崎は彼女にも魅かれる。他の登場人物たちもいろいろな愛の問題を抱えている。
 場面は、桃と××しながら響子を思う鯖崎。

 
……
 桃に聞かされていた事前情報から、鯖崎はもっと所帯じみた女性を思い描いていた。他人の思惑など気にしない、騒々しくて独善的な女性を。けれど実物の響子はまるで違っていた。思春期の子供みたいに不器用で、思春期以前の子供みたいに臆病に見えた。
 桃ちゃんも臆病だけれど、それ以上だ。桃の両脚のあいだで鯖崎は思う。響子のことを考えてはいても、身体は自然と桃との行為に没頭できた。呼吸が合うのだ。桃は半ば無意識に膝を立てる。声をだしたりはしないが、背の反らせかたや手の力――桃はときどきベッドをたたく。鯖崎にしがみつくこともあるし、両手を真上にあげてヘッドボードにつかまろうとすることもある――で、鯖崎を駆り建てる。桃の手足はすべらかで、皮膚は街なかの雨に似た匂いがする。足の爪はいつも淡い二色に塗り分けられている。職業柄、手の爪を染めることはできないのだと、本人は残念そうに言うが、鯖崎は桃の手が好きだ。染めていない爪も。
 響子は小さな手をしていた。節というものを感じさせない、和菓子のような手だった。
 果てたあと、鯖崎の胸に最初にひろがったのは、ひらひらとよく動く、響子のその小さな手だった。


◇ うみふみ書店日記 (その15)
 4月4日 木曜
 休み。二月に一度の内科診療。
奥の院」。コンピュータ不調。メール不通に。

 4月5日 金曜
 店では教科書販売期間(近隣大学)ローテーションに悩み、家ではコンピュータ不調に煩わされ、「ストレスで10円ハゲできるわ」と妻にグチ。
妻、「ハゲができて目立つほど毛ないがな!」
この一言で開眼。店のことはさておき、機械のことで悩んでも、もともと知識も技術もないうえ、習得しようという意欲もないのだから、悩むこと自体がおかしい。

 4月6日 土曜
「朝日」記事。大江健三郎賞本谷有希子『嵐のピクニック』。
同、訃報。佐藤亜有子、1月5日死去。97年芥川賞候補。
 バイト卒業したばかりのIさんに復帰依頼。快諾してくれる。ローテーション、楽に。
 爆弾低気圧到来の予報。昨年のことを覚えているから覚悟していたが、予想ほどではなくホッと……していたら、帰途大雨。全国で被害。【児童書】Tの友人が関東から来神予定が、有事の際の「自宅待機」でキャンセルになったそう。

 4月7日 日曜
 終日強風。山手は濃い灰色の雲で蔽われている。
 樽職人で古本愛好家「T主人」来店。草森紳一の大著『李賀』(芸術新聞社)他を購入くださる。ありがとうございます。

 4月8日 月曜
GF碧野圭さんの『書店ガール2』(PHP文芸文庫)、ようやく読了。何をおいても真っ先に読まねばならぬのだが、あれやこれや(言い訳はいっぱいできる)で遅れる。申し訳ない。改めて紹介。
 終業後、「くとうてん」S編集長並びに我がパートナー(♂、勘違いしないでね)Gちゃんと会談。
明日の本屋を考える……、何やら新しい予感? でもね、私、Sさんとは久しぶりなので、見とれてしまって涎垂らして……何の話だったか覚えておらぬ。おっさんアホです。

 4月9日 火曜
 夕方、京都の美術書出版S舎Iさん久々。しばらく東京勤務、3〜4年振りか。
 夜のテレビニュースで「本屋大賞」報道多数。

 4月10日 水曜
 朝から「本屋大賞」、テレビ報道、「朝日」記事でも。大きな大きな宣伝効果。

先週のベストセラー
1・近藤誠  医者に殺されない47の心得  アスコム
2.岸惠子  わりなき恋  幻冬舎
3.     神戸ルール  中経出版
4.川平秀一  油を使わずヘルシー調理! ポリ袋レシピ2  泰文堂
5.山折哲雄監修  あなたの知らない親鸞浄土真宗  洋泉社新書
6.宮部みゆき  桜ほうさら  PHP研究所
7.伊坂幸太郎  ガソリン生活  朝日新聞出版
8.延藤安弘  まち再生の術語集  岩波新書
9.村井康彦  出雲と大和  岩波新書
10.白井恭弘  ことばの力学  岩波新書

(平野)