週刊 奥の院 4.8

■ アラン・バラトン 『ヴェルサイユの女たち 愛と欲望の歴史」 園山千晶、土居佳代子、村田聖子 訳 原書房 2400円+税 
 著者は庭師、作家。ヴェルサイユ宮殿内の「トリアノン庭園」主任庭師を務めた。
 16世紀末頃、ヴェルサイユ周辺は湿地で野生動物が豊富な狩り場だった。アンリ4世は狩りに訪れて、そのあと村の女たちと……。
 子のルイ13世も狩りに来た。立ち寄るための小さな城を建てた。彼は真面目というより堅物。風貌は良いしエレガントでダンスも上手、剣の腕も悪くなかった。しかし、スキャンダルはない。どっちかというと「変人」。
 その子ども、ルイ14世が宮殿を建てた。

……ルイ14世は、自らが建立したこの宮殿で多くの女性たちを誘惑し、ルイ15世はポンパドゥール夫人を口説くのに熱中し、夫人のためのルプチ・トリアノンを建ててしまった。ナポレオンはグラン・トリアノンの家具を新調して、婦人たちを次々と征服しようとした。セックスと権力は絶妙に合わさり、溶け合いながら危険なカクテルとなって、ヴェルサイユに抗うことのできないめくるめく愛の媚薬をふりまき、今もその香りを放っているのである。

 アランがヴェルサイユで仕事に就いたばかりの1980年代には、まだ周辺の森や路上で「エキサイティングで、淫らな話」がころがっていた。82年サミットのときにはある国の記者が王妃の間に入り込んで××とか、有名女優が庭園内で下半身露出(常習)とか。普通(?)のカップルの乱行は日常茶飯事。ノゾキも多数いた。 
 憩いの場だったのかもしれないこの場所も、時代とともに変遷。木が伐採され、パトロールが強化され、カップルが減った。99年の大嵐で庭園の木々が倒れ、怪しい人たちもいなくなった。


■ 写真と文 本橋成一 『うちは精肉店』 農文協 1600円+税 
 大阪府貝塚市精肉店。ここは牛を育てるところから始め、屠畜して、肉・内臓を切り分け、売る、までを江戸時代末期から手がけてきた。ここの賭場が閉鎖されることになり、最後の一日を本橋が取材した。精肉店の仕事は継続する。

(本橋)人は、食べ物としての肉をみると「おいしそう」といいますが、牧場で草をはむ牛をみると「かわいい」、その牛が屠畜される場面になると「かわいそう」という。食べものとしてのおいしそうな肉がどのように、だれがつくってくれているのか、そこのところが、いまの社会ではなかなかみえないですね。
(新司)瞬間やからね。牛のいのちをいただくというのは、瞬間やねんな。そのあと、手ぎわよく、どう処理するか、その全部が屠畜という仕事なんや。「いのちをいただく」その瞬間があって、肉になるまでは、もう少し長い時間がかかる。そして、口に入るまでは、さらに長い時間がかかる。屠場に入るまでは畜産の領域であるけれども、屠畜の瞬間からは食肉という食品産業の領域になる。いのちをいただくという一瞬をはさんで牛は生きものから食べものになるんです。……
 いのちをいただく、というその瞬間に、牛に対する思いというかな、ひとつだけあるのは、一発で倒してあげないと、という思いはある。苦しませたくない。苦しませたら自分が危ない、そういういのちのやりとりがある。……

(平野)