週刊 奥の院 3.17

■ 井上寿一 『理想だらけの戦時下日本』 ちくま新書 840円+税 
 1956年東京都生まれ。学習院大学教授、日本政治外交史。『アジア主義を問い直す』(ちくま新書)、『日中戦争下の日本』(講談社メチエ)他。
 かつての日本が「理想」だという本ではない。



(帯)

右傾化・格差・政治不信・ポピュリズム
日本人は同じ過ちを繰り返す。

「はじめに」より。

 この本の主題は国民精神総動員運動(以下、精動運動)である。
 精動運動とは何か? 一九三七年の日中全面戦争の勃発にともなって、近衛文麿内閣が決定した国民を戦争に動員するための官製運動のことである。
 なぜ遠い過去から精動運動の記憶を呼び戻そうとするのか。当時と今の国民心理が似ているからである。……

 どう似ているのか?
 君が代・日の丸強制、改憲論など「右傾化」。
 これを海外メディアが報道したが、日本国民は違和感を持つらしい。危機感を持つ人もいる。
 戦時下と現在では確かに状況は違う。それでも著者は3つの類似点を重視する。
(1)2012年12月総選挙の得票率は戦後最低の59.3%。精動運動開始直前の選挙(1939.4)の得票率も男子普通選挙下最低の73.3%だった。
(2)共同体の再生。3.11後の「絆」や「助け合い」の考えに基づくコミュニティ志向。精動運動も「互助の精神」を掲げた。
(3)社会の平準化。格差社会平準化の期待は戦時下でもあった。

第1章 「体を鍛える」といわれても  質実剛健 健康が大事
第2章 形から入る愛国  日の丸 君が代 宮城遥拝
第3章 戦前昭和のメディア戦略  ラジオ 精神映画 紙芝居
第4章 気分だけは戦争中  傷痍軍人 銃後の守り ボランティア 隣組
第5章 節約生活で本当に国を守れるのか?  戦時下での資本主義 小さな節約 非常時生活 贅沢
第6章 戦争の大義はどこへいった?  アジアの盟主 曖昧なままの日本精神 欧州情勢 方針なき日本
第7章 ファシズム国家になれなかった日本  外から見た精動運動 精動運動VS新体制 大政翼賛会

 今の日本は経済の悲観論が強い。右肩下がりの経済を前提に共同体を作るべきではないか。そのような議論が起きている。これを下方平準化志向と呼べば、下方平準化社会の未来は暗い情念と閉塞感をもたらすだろう。一方では少しずつでも右肩上がりの経済成長をめざしながら、他方では情報平準化によって、社会の中堅層を拡大する。
 別の言い方をすれば、これからの日本は、富の平等な再分配に基づく福祉社会を持つ成熟した先進民主主義国家をめざすべきである。

(平野)
東日本大震災を被災地から読むフェア」を神戸新聞で紹介していただきました。私のネボケ顔も。
http://www.kobe-np.co.jp/news/kobe/alacarte/201303/0005809342.shtml