週刊 奥の院 3.16

■ 野坂昭如 『終末の思想』 NHK出版新書 700円+税 
 久々“野坂節”。
(帯) 日本民族へ、お悔やみを申し上げる
 写真は荒木経惟
第1章 この世はもうすぐお終いだ  日本列島に、人間などいてもいなくてもいいのだ
第2章 食とともに人間は滅びる  日本は食の敗戦国である
第3章 これから起きるのは、農の復讐である  本当に飢えたとき、人は人でなくなる
第4章 すべての物に別れを告げよ  日本は、政治や経済では救われない
第5章 また原発事故は起こる  快楽をむさぼる「ツケ先送り」社会
第6章 滅びの予兆はあった  本土決戦はやるべきだったか
第7章 上手に死ぬことを考える  満開の桜には恨みがこめられている
第8章 安楽死は最高の老人福祉である  死を個人に取り戻させよ
第9章 日本にお悔やみを申し上げる  言葉を失い、民族は滅びる

1章〜4章、9章、書き下ろし。

……
 日本の将来について考える時、ぼくに希望は全くない。
 もとより、こっちは病に倒れ、とんと浮世離れの身、偉そうに考えるなどと、言えた義理じゃないが、焼跡をうろついた身として、世間に漂う明日待ちの雰囲気に、何やら胡散臭い匂いを感じている。……

 将来、飢えに襲われるだろう。農をないがしろにしてきた。飢えでまず死ぬのは老人。
焼跡で「飢え」を経験した野坂は断言する。

……年寄りと子どもが順番に死ぬ。戦後よく見た光景。
あと少しでぼくも死ぬところだった。

 どうすればいいのか?
 考えようによっては、餓死は自然死に近い。中年は酒でも飲んで死ぬのを待て。若者は食いもののない事態を知らないから苦しむ。盗み奪い、悲惨な餓死を迎えるだろう。丈夫な若者だけが生き残る。

 残った者はしゃかりきに働け。鍵は伝統回帰にある。
土に戻れ。


 農を大事にして、漁業で生き延び、生き残った若者でやり直すしかない。
問題は食べるものだけではない。環境問題もある。

 世の中、一寸崎は闇なんてものじゃない。
 日本はお先真っ暗。絶望が世を覆っている。


 生き方を変えなければならない。
金や物、合理化ではなく、

……無駄だと省かれたものの中にこそ、日本の誇りがあった。風土や気質、歴史に支えられ培ってきた独自の文化。うわべ豊かとなった時、今度は内容を豊かにしなければならない。

(平野)