週刊 奥の院 3.8

今週のもっと奥まで〜
■ 大石圭 『女が蝶に変わるとき』 幻冬舎アウトロー文庫 648円+税 
 官能、ホラー、そして、純愛?
 元はホテルだった洋館。50歳代の女性たちが集まっている。美少年にかしずかれ楽しく過ごしている様子。その女性〈あなた〉も美少年にエスコートされ、美しいメイドに身の回りの世話をしてもらう。部屋のあちこちにビデオカメラ。誰かが見つめている。女性は見られていることを承知でカメラの前に立つ。淫らなこともする。「会いたいわ」とつぶやく。
 美少年に「あの人に会わせて」と頼む。館の最上階、主〈私〉の部屋。昆虫の標本でいっぱい。食事を終えて、〈私〉は建物の上の塔に女性を連れて行く。星を眺めながら……、

天文学者になりたいと思っていたことがありましたね」私はささやくように言った。
「どうして知っているの?」あなたは驚いてきき返す。
「私はあなたのことならたいていのことは知っているんです」
……
 私はあなたの肩をそっと抱いた。細い肩が微かに震えた。そして私の指も。遠くでフクロウの鳴く声が聞こえた。
「これから、なりたいものはありますか?」私はそうあなたにきいた。
 あなたは私に肩を抱かれたまま、しばらく考えて、「今ではもう何もないわ」と言った。
 フクロウの声がやみ、羽ばたきが聞こえた。小さな獣の悲鳴。きっと、フクロウが今夜の食事を捕まえたのだろう。
 あなたは黙って森を見ている。風があなたの髪を揺らす。
 私はあなたを抱いた腕に力をこめる。
 あなたは驚いたように私を見る。
 私はあなたを抱き寄せた。
 何十年ぶりかの口づけ。あなたは私を拒まない。私はそれに勇気づけられ、あなたの体を強く抱き締め、もう一度唇を合わせた。
……

〈私〉は実の母を愛し、殺し、冷凍保存。ほかの女たちも、標本のようにコレクション。彼女のこともそうするつもりだった。彼女もそうなってもいいと思っていた。しかし……。

■ 『kotoba』 No.11 2013年春号 集英社 1333円+税
特集 本屋に行こう 
椎名誠 タカラモノとしての本を求めて 
川本三郎 シニアには、こぶりの書店がいい
池澤夏樹 書店は、これから
又吉直樹 これが又吉流! 本屋の歩き方
高橋源一郎 こんな「本屋」に行っていた
永江朗 書店通いがぼくの人生を変えた
鹿島茂 知的遊戯の宝庫、パリの古書店巡り
稲泉連 震災直後、人々はなぜ書店に列を作ったのか
齋藤孝佐藤優幅允孝坪内祐三松岡正剛福岡伸一岡崎武志グレゴリ青山……

書店で過ごす時間は楽しい。
自分にとっておきの一冊を求めて店内をさまよい、
気になる書棚に佇み、魅力的な書名や装丁を見て感嘆する。
初めて対面する本との出合い。
読書そのものと同じくらい大切な、至福の時間である。


◆ うみふみ書店日記 (その10)
2月28日 木曜
休み。家事いろいろ。あとは「奥の院」とブログ準備。

3月1日 金曜
フェア入れ替え。あれもこれもと欲張るから、なかなか片付かない。
3月フェア「東日本大震災を被災地から読む 在仙台編集者+書店員による震災本50冊+10+仙台出版社の本」どーんと土俵入り。
2月フェアの集計は後回し。常備も明日……できるかあ?
本日は暖かく、作業していて汗。
夕方、K新聞H記者、仙台から電話。荒蝦夷と呑んでいる。
「海会」の「本屋の眼」100回記念でスペース増。

3月2日 土曜
フェアの片付けままならず、常備手つかず、スリップ未整理、ファックス堆積、返品野放し。

3月3日 日曜
休み。
妻が「用事ないのか?」と訊ねる。特にないと答える。「ほな、お墓行くで」お彼岸には行けそうにないので。

3月4日 月曜
ようやく2月フェアの片付け。
常備4社引き落とし。

3月5日 火曜
フェア集計を報告、返品。
常備、また4社、猫だまし。3月入れ替え分がもう来ている。
「朝日」出版関連記事多数。
志賀直哉未公開書簡発見。吉川英治賞小池真理子『沈黙の人』(文藝春秋)。鮎川信夫賞、四元康祐『日本語の虜囚』(思潮社)、坪井秀人『性が語る』(名古屋大学出版会)。3.14より、宮部みゆき連載開始。「荒神」。挿絵・こうの史代。何年も前に、宮部さんはスケジュール5年先まで決まっている〜というのを読んだ記憶が。その頃にこの連載が決まっていたのでしょうな。賞の選考委員もいっぱいしてはります。寝る時間あるのですか。

常連客Mさんから、「奥の院200号、おめでとう」。ご愛読ありがとうございます。

M社Mさんよりメール便、日記と(紀)「じんぶん大賞」リーフレット。ありがとうございます。社の業務も、業界団体の仕事もお忙しい。

3月6日 水曜
岩波書店の前の担当Hさん、もうすぐ退職でご挨拶に。お世話になりました。筑摩書房Tさん担当異動で新任Nさんと一緒に。
元N荘・Kブックス、現・生臭牧師Hさん来店。
京都O書店Hさん、ハーバーランド出店の雑務で神戸に。

ようやく12月新刊分の返品作業にとりかかる。残すか返すか悩みながら、何日かかるか。と思っているうちに時間切れ、レジに。
『本屋の眼』お買い上げの方あり、サインと手製しおり。

◆ 先週のベストセラー
1 都市生活研究プロジェクト  神戸ルール 中経出版
2 百田尚樹  夢を売る男 太田出版
3 平岩弓枝  蘭陵王の恋 新・御宿かわせみ 文藝春秋
4 ヨグマタ相川圭子  宇宙に結ぶ「愛」と「叡智」 講談社
5 今野敏  晩夏 東京湾臨海署安積班 角川春樹事務所
6 白井・有賀  日本の七十二候を楽しむ 東邦出版
7 長田弘  なつかしい時間 岩波新書
8 橋爪・大澤・宮台  おどろきの中国 講談社現代新書
9 大石英司 米中激突  中央公論新社 (ノベルス)
10 西村京太郎  消えたなでしこ 文藝春秋 (ノベルス) 
(平野)