週刊 奥の院 3.7

■ 山川徹 『それでも彼女は生きていく』 双葉社 1400円+税
(帯)

3.11をきっかけにAV女優となった女の子たちがいる。
彼女たちは震災後、何を思い、何を求め、AVの世界に足を踏み入れたのか。
今まで語られることのなかったもうひとつの震災の現実――。

 山川は1977年山形県生まれ、ルポライター。学生時代から「東北学」編集に加わった。著書に『東北魂 ぼくの震災救援取材日記』(東海研究所)他。
 震災から4ヵ月、町の瓦礫が徐々に片付きはじめた頃。冷房のない避難所で、毎日のようにある葬儀で。漁を待つ人、家をなくした人、犠牲者を悼む人、捜し続ける人、生まれ育った土地から離れた人……、山川は「いままさに震災という現実と向き合っている人たちに話を聞いていた」。
 ある噂を耳にする。
「被災した女性たちが上京して風俗やAVで働きはじめている。とくにAVは、女優になりたい女性が多すぎて、出演料が下がるほど」。
山川は「聞いた瞬間、胸が痛むほどのリアリティ」を感じる。
 岩手出身の津波研究家・山下文男が昭和大恐慌と大凶作を記録している(『昭和大凶作 娘身売りと欠食児童』無明舎出版)。山下は震災時、入院中。津波に襲われ難を逃れたが、その年の12月肺炎で亡くなった。本の内容は、借金に苦しむ家族を救うため娘たちが身売り奉公に出る。大部分は女工だが、文字通りの「身売り」もあった。
 山川は、まさかこの現代に、と思う。「出稼ぎ」と「身売り」を重ねることはできないが、現実に土地を離れて働かざるを得ない状況がある。
 知人の協力で、AVや風俗で働きはじめた女性を探す。
「噂は、現実だった」
 実際に3人に話を聞いた。

……うちふたりは震災の影響で仕事を失っていた。だが、みな明るかった。少なくとも僕には割り切っているように感じられた。〈娘身売り〉から連想されるような悲愴感はまるでなかった。けれども、彼女たちはこう口を揃えるのだ。
 震災がなければ、いまここにはいない――と。……

 その後もAVデビューした女性がいることがわかるが、被災地取材の記録をまとめるため、インタビューを先送りにしていた。再開すると、AVの世界も不況で状況が変わっている。仕事がない、復興景気の東北に帰るなど。彼女たちだけではなく、被災地でも同様で、
「被災した人の時間の流れは速い」
 環境がめまぐるしく変わる。
 山川は、「だからこそ、いま」の思いで取材再開。7人の女優にインタビュー。
 撮影現場のこと、彼女たち自身にとって大切なことも赤裸々に語ってくれる。現場の裏方さんのこと、家族と幼い弟・妹たちの将来も。
 福島出身の大学生は演劇・映画志望。

私がなんとかしなくちゃって。福島で暮らす子どもたちが、これからどうなるかなんて誰にも分かりません。まだまだ落ち着いて子どもの将来を考えることができる状況じゃないと思うんです。……被災していなければ、AVの仕事は選ばなかったですね。だって震災を経験していなければ、親のありがたさも家族の大切さにも気がつかなかったと思うから。

 インタビューする山川は、前向きに語る彼女の明るさを逆につらく感じる。
「彼女は、いま家族を支えるために、そして自分の夢を叶えるために生きている」


◇ 東日本大震災を被災地から読む 仙台の出版社の本 その2
東北大学出版会 

■ [今を生きる 東日本大震災から明日へ! 復興と再生への提言] 全5巻 各2000円+税
1 座小田豊・尾崎彰宏編 『人間として』
2 水原克彦・関内隆編  『教育と文化』
3 稲葉馨・高田敏文編  『法と経済』
4 久道茂・鴨池治編   『医療と福祉』
5 吉野博・日野正輝編  『自然と科学』
 大学も多大な被害。
「被災地にある大学として、可能な限り被災地・被災者に目を向け、共に、今をどう生き、復興と再生のためにどのような方策があるのかを真剣に考え、方法
を広く提言するという課題を課せられている。……それを本のかたちに残すことが必要で、その仕事をなすべきは我々」  

■ 山下文男 『津波の恐怖 三陸津波伝承録』 2000円+税
著者(先述の山川の本にも登場した津波研究者)は少年時代に「昭和三陸津波」(1933・昭和8)を経験。明治の津波で一族8人が犠牲になった。



■ 野村俊一・長澤紀子編 『建築遺産 保存と再生の思考  災害・空間・歴史』 3300円+税   
 震災をきっかけに開催したシンポジウムの記録。歴史的建造物の保存と再生を6つのキーワードで考える。
1 理念 復興の眼差し  2 文化 更新される歴史と文化財  3 手法 修復の創造性  4 空間 過去の読解とその作法  5 活用 潜在する再生力  6 産業 自活するコミュニティ



■ 東北大学高等教育開発推進センター編 
東日本大震災と大学教育の使命』
 1700円+税
 岩手・宮城・山形の大学11校で展開する多様な復興支援活動と、これからの大学教育のあり方、地域社会における人材育成について。

(平野)
雑誌『kotoba』 第11号 特集「本屋に行こう」(集英社)、明日紹介。