月曜朝礼新刊紹介

【文芸】 クマキ 
■ 安藤まどか 『わが母 時実新子――母からのラブレター』 実業之日本社 1800円+税
 3月10日は新子さんの7回忌。著者は長女、「まどか」はペンネーム。ウエブサイト「時実新子の川柳大学」管理人。
 まどか自身が癌の告知を受け、余命を覚悟。身辺整理にかかったところ、「段ボール箱にぎっしりつまった母からの手紙」が出てきた。まどか20歳から40年間、「時実新子」が母として娘に向き合ってくれた貴重な時間の記録。
 お弟子さんが協力、300通の手紙とFAXから選び、まどかのインタビューもまとめる。

 一七歳で岡山から姫路の大家族に嫁いだ母は近くに友人もおらず、電話も今ほど簡単にかけられる状態ではなく、だんだん趣味というより生活の一部として川柳に没頭し自分の世界を作り上げていたようです。子どもより「川柳」、旦那より「川柳」。
 子どもとしては、じっと家にいて専業主婦に徹する母親を望みましたが、うちの母は一筋縄ではいきませんでした。
 その根性ゆえか、五〇代後半で世に認められてあれよあれよと作家になっていった母。私はいつしか母のことを「新子さん」と呼ぶようになり、言いました。「こうなったら、とことん売れて大作家になってほしい。中途半端に終わられると子どもの頃に辛抱した甲斐がない」と。……



■ いとうせいこう 『想像ラジオ』 河出書房新社 1400円+税
『文藝』春号 河出書房新社 1286円+税 特集「いとうせいこう  

(帯)

耳を澄ませば、彼らの声が聞こえるはず
ヒロシマナガサキ、トウキョウ、コウベ、トウホク…
生者と死者の新たな関係を描いた世界文学の誕生

 著者、16年ぶりの新作。
 ツイッターで発表し、『文藝』掲載。既に今年の「ベスト」の声がかかるほど大きな反響。

こんばんは。
あるいはおはよう。
もしくはこんにちは。
想像ラジオです。
 こういうある種アイマイな挨拶から始まるのも、この番組は昼夜問わずあなたの想像力の中でだけオンエアされるからで、月が銀色に渋く輝く夜はそのままゴールデンタイムの放送を聴いてもいいし、道路に雪が薄く積もった朝に起きて二日前の夜中の分に、まあそんなものがあればですけど耳を傾けることも出来るし、カンカン照りの昼日中に早朝の僕の爽やかな声を再放送したって全然問題ないからなんですよ。……

 DJの自己紹介、38歳、「この小さな海沿いの小さな町」に生まれ育ち、東京の大学に行ってバンド活動して……故郷に帰ってきて、そして今は「天を突き刺すような樹木のほとんど頂点あたりに引っかかって仰向けになって首をのけぞらせたまま町並みを逆さに見てる」状態。本名芥川冬助。
 リスナーから電話やメールもくる。同級生から、

……芥川君、私は今日の午後、たぶん芥川君だろうと思う人の姿を見ました。つかまっていないと立っていられないほど部屋が揺れて揺れて、それが泣き出しそうなほど長く続いたあと、私はあわててラジオをつけた。すると速報で津波の高さは六メートルだという。(父に声をかけ、腰を抜かしていた母に服を着せ、表に出る。マンションのベランダに赤いヤッケの男の人が見え、それが芥川)……なぜ逃げないのか、よくわからなかった。芥川君、早く地上に戻ってきてください。……


【芸能】 アカヘル
■ 三田完 『歌は季につれ』 幻戯書房 2200円+税  
(帯)

“俳句の家”に生まれ、NHKで歌謡番組を制作、昭和最大の作詞家・阿久悠を陰で支えた小説家がつづる
〈昭和の歌〉歳時記
あの歌、あの歌手、そして一句

 1956年埼玉県生まれ。祖母が俳句結社「水明」主宰。三田はNHK退職後もテレビ・ラジオ番組を制作。小沢昭一の番組も担当した。2000年「オール讀物新人賞」。 
 2012年3月の項。「花はおそかった」(詞・星野哲郎 曲・米山正夫)、歌唱・美樹克彦。
 クロッカスの花が好きだった「かおるちゃん」の最期を看取ることができなかった男性が、「バカヤロー!」と叫ぶ。
 添えられた句は、
鎧ふものなき身や風のクロッカス  小林量子
 クロッカスの地味な印象と花言葉「あなたを待っています」を、「花はおそかった」のヒロインを重ねる。
 そして、星野が詞に秘めた「怒り」。昭和29年(1954)3月1日の第五福竜丸被曝事件。
装幀 間村俊一  装画 宇野亜喜良
(平野)