週刊 奥の院 2.22

今週のもっと奥まで〜
■ 桜木紫乃 『ホテルローヤル』 集英社 1400円+税 
 北国のラブホテルを舞台に男と女の物語。
 恋人に投稿ヌード写真撮影される女。貧乏住職妻の「奉仕」。親と同居夫婦の二人の時間。親に家出された女子高校生と妻に浮気された教師。そして、親からホテルを引き継いだ女性経営者。
 雅代はホテルを閉める決意。10年間寝起きし、食事をしながら暮らしてきた。
「男と女の後始末」が仕事だった。ホテルの後始末も、アダルトグッズ=「えっち屋」を残すのみ。営業マン宮川が返品作業。雅代が話し、宮川がポツリポツリと答える。宮川夫婦の話になる。妻が宮川のパソコン・ケータイすべてをチェックする。雅代は夫婦の関係が「大きくずれている」と思うが、真面目すぎる宮川を見ると妻に同情する。親の仕事を継いだ自分の馬鹿正直さにも腹が立つ。

「今日はね、わたしの新しい旅立ちなの。もっとぱっと陽気にここからでて行こうかと思うんだ」
(心中事件のあった部屋に宮川を誘う)
「宮川さん、これ使って遊ぼう」
「僕はこの十年、男も女も、体を使って遊ばなきゃいけないときがあると思いながら仕事をしてきました。自分はそのお手伝いをしているんだと言い聞かせながらやってきました。間違ってはいなかったと思います」
(雅代が手に取ったグッズを取り上げ、箱に戻す)
「こういうことは、ちゃんと手順を踏まないと」
「わかんない、手順なんて」
「すみません。実は僕もよくわかりません」
 ふたり同時に長いため息を吐いた。とりあえず男の肩に頭をのせてみる。風呂の中が見えるように張られたガラスが、鏡になってふたりを映していた。
「現実だよね、っていうか格好悪いな」
「申しわけありません」
……
「バカだな、こんなところで死ぬなんて」
 意を決して男の腕に手を伸ばした。
「非日常か」
 雅代のつぶやきを宮川の体が覆った。男の体の重みなど、覚えていない。他人の皮膚は思ったよりずっと冷たかった。唇はもっと冷たい。首筋から肩へと下りてゆく。胸の先に届いても、男の唇は温まらなかった。
……
「奥さんのこと、考えたでしょう」
……

うみふみ書店日記 その8
2月14日 木曜
休み。
本日は妻に言いつけられた用事もなし。引きもっこり。
奥の院」をやっつけて、GFたちに送信して、「海会」の「本屋の眼100回記念」に取りかかり、これもエエ加減に仕上げて店長に送信。
GF返信メール。
Iさん、お仕事お疲れ? 書店員女子会があるそうで、英気を養ってきてください。
Yさん、某取次の会で、「皆さんご苦労されていても、引き締まった良いお顔」。
私も顔を引き締めよう。
もう遅い!

2月15日 金曜
雨だというのに、息子行き宅急便抱えて出勤。
遠くのGFからチョコが届く。お礼。
A新聞コラム原稿、直し。
K新聞Hさん、3月初めに仙台行き、荒蝦夷Hさんたち取材とか。

荷物、教科書いっぱいのところに、常備入れ替えがどーんと。2月は私の担当版元が多い。それも「みすず書房」「白水社」「平凡社」と大所が。「NHK」も。とりあえず1箱の2社を引き落とし。

地元著名人の本、なぜか即返品されている。
ん〜、確かに初めて見る出版社だが。うちのお客さんでもあるのだけれど、ん〜。
至急注文。それにしても……。

仕事は定時で終わり、梅田で「四人還暦会」。淡路島、滋賀県、市内南森町から。
「波瀾万丈」「有為転変」「人生いろいろ」
私だけ平穏(順風ではない)。
それぞれ苦労があるけど、明るい。家族にも恵まれている。この人たちと友だちでいてよかったと思う。

2月16日 土曜
カゼで休みのK、肺炎だった。しばらく静養。
昼から常備に専念。大小とりまぜ3社寄り倒し、レジ番に。
「朝日」夕刊。「村上春樹、4月に長編小説」記事。文藝春秋が発表。

2月17日 日曜
休み。
新聞折込、ハーバーランドにできる本屋の求人広告。
児童書を充実させるそうだが、それはH急が最初にやって撤退した。

妻、ひっくりこけて打撲、美貌と頭に影響なし。一日休養。
私はブログ準備。

2月18日 月曜
「朝日」記事。川端康成、全集未収録の新聞小説を福岡県文学館が発見。「美しい!」。1927年「福岡日日新聞」連載。
アルバイト採用面接、2名。
バイト募集をすると、「大学生」と大書していても「社会人」から問い合わせがある。申し訳ないが断わる。「社会人」に勤めてもらう時間数でも給料でもない。大学生でも相場よりかなり低い。
常備、「白水社」と「みすず」を寄り切り。

2月19日 火曜
一日ほぼレジ。じっと同じ場所にいるのはシンドイ。「ちょっと代わります」という心遣い、ありがたく。
ロードスさん、古書目録「ロードス通信 第34号」ご持参くださる。
帰宅したら、娘から宅急便。頼んでいた世田谷文学館の図録。「帰ってきた寺山修司」と「和田誠展 書物と映画」。それにパンフいろいろ。会員制タウン誌「かんだ」も。機嫌良く。
http://www.setabun.or.jp/ 

2月20日 水曜
急の休みでレジやカウンター業務に欠員ができると、いないといけないのに「自主的に」いなくなる人が。ちゃんとローテーションを決めないと不公平になる。ほんで、毎回私が決める。仕事増やすな! 責任者、誰やねん!
《くとうてん》より納品。豊田和子作画、雛人形色紙や絵葉書など。
◆先週のベスト
1 江國香織  ちょうちんそで  新潮社
2       シルバー川柳  ポプラ社
3 海堂尊   輝天炎上  角川書店
4 江弘毅   飲み食い世界一の大阪  ミシマ社
5 郄田郁   あい 永遠に在り  角川春樹事務所
6 大沢在昌  冬芽の人  新潮社
7 黒田夏子  abさんご  文藝春秋
8 阿川佐和子 聞く力  文春新書
9 乃南アサ  いちばん長い夜に  新潮社
10 柴田哲孝  国境の雪  角川書店

文芸書中心でイイ感じではないか。
(平野)