週刊 奥の院 2.21

◆ 岩波文庫から
■ 紅野敏郎他編 『日本近代短篇小説選 明治篇2』 900円+税 
夏目漱石『倫敦塔』  寺田寅彦『団栗』  大塚楠緒子『上下』  正宗白鳥『塵埃』  田山花袋『一兵卒』  徳田修声『二老婆』 他 島崎藤村永井荷風志賀直哉谷崎潤一郎 ……
 解説(宗像和重)より。
 漱石は1900(明治33)年10月から2年間イギリス留学。親友正岡子規は「病牀六尺」の身で、明治34年の正月を迎えた。後輩寒川鼠骨が「二十世紀の年玉」として贈ってくれた地球儀を枕辺に置いていた。

……ロンドンで一九〇一年の新年を迎えた漱石は、二十世紀の到来をもっとも強く意識した日本人の一人だったといっても過言ではない。しかし、ロンドン到着からわずか四日目に、最初の観光として訪れた漱石の前に、ロンドン塔は「宿世の夢の焼点のよう」な姿をあらわした。幽閉された二王子との面会を拒まれて泣きくずれる母や、夫とともに死を望んで敢然と自らの首を断頭台に投げかける女の姿が生々しく浮かび上がり、「二十世紀の倫敦がわが心の裏(うち)から次第に消え去ると同時に眼前の塔影が幻の如き過去の歴史をわが脳裏に描き出して来る」稀有な体験をもたらしたのである。……

「倫敦塔」発表は明治38年1月。「吾輩は猫である」第1回と同時。
 前年2月、日露戦争開戦。
 本書収録作品のキーワード、日本二十世紀初頭文学&日露戦争・戦後文学。 
 全6冊完結。 



■ ウンベルト・エーコ 『小説の森散策』  和田忠彦訳 840円+税 『薔薇の名前』の著者で記号論学者。本書は、ハーヴァード大学ノートン詩学講義(1992〜93)の記録。96年、岩波より単行本。
 1926年から始まった〈ノートン・レクチャーズ〉には世界的文学者・詩人・音楽家・批評家が招かれて講義。エーコはイタリア人として初めて講義。
 エーコは、親友イタロ・カルヴィーノの思い出から始める。カルヴィーノは85年にここで講義をする予定だった。草稿を5日分書き終えたところで突然亡くなる。二人の出会いは59年。詳細は訳者の解説を。 


■ 佐竹謙一 『スペイン文学案内』 1020円+税
 岩波文庫「別冊」として文学案内がのは久々。『フランス文学案内』『ロシヤ文学案内』『ドイツ文学案内』『ギリシア・ローマ文学案内』に続いて。
(平野)