週刊 奥の院 2.18

■ 『望星』 3月号 東海教育研究所発行 東海大学出版会発売 552円+税 
特集 震災2年、東北からの声
対談 赤坂憲雄×土方正志  僕たちは何を見てきたか。
記者座談会 福島民報×岩手日報×河北新報  地元紙の記者が語る、被災地の現在
詩歌が伝える記憶 和合亮一  佐藤成晃
寄稿
震災遺児基金から見た子どもたち 高成田享
福島、少年スポーツ指導者の苦悩 岡邦行

赤坂・土方対談より。
 赤坂は〈東北学〉提唱者。被災地を歩き、震災復興構想会議で提言を重ねた。2011年4月に岩手県遠野文化研究センター所長に就任。福島県立博物館館長でもある。
 土方は仙台の出版社「荒蝦夷」代表。東北文化を発信。
 赤坂は震災後3月29日に庄内空港から鶴岡に入り、山形に避難していた土方と再会。それから赤坂の被災地訪問が始まった。

【土方】この二十年間、赤坂〈東北学〉は東北各県だけではなく全域をカバーしてきた。赤坂さんのように、被災三県を繫ぐかたちで活動している人は、実はあまりいない。動きがそれぞれに分断されて、なかなかうまく連繫が取れない。また、それぞれ自分たちの問題で手一杯でもある。そんな状況にあって赤坂〈東北学〉の存在意義は大きかったと思います。
【赤坂】津波にやられたあの地域を僕は見てきた。聞き書きや調査のために、ほとんど全域を歩いている。津波に流されたあの風景の向こうに、あるいはその下に横たわっているものを僕は知っている。そこからメッセージを汲み上げることが僕にはできるはずだ、それを知らない人たちには書けないものを書けるはずだという思いが、自負があったのは確かです。〈東北学〉の二十年間がいまこのとき活かせなければ、まるで意味がない。また、至るところに教え子たちが、共に仕事をしてきた仲間たちがいますから、決して他人ごとではなかった。そんなことを思って、発言の覚悟を、そして、それを〈東北学〉の第二章として鍛え上げていく覚悟を決めた。
(土方は聞き書き活動中、300人近くに及ぶ)
【土方】……聞き書きそのものは、震災が起きたからというわけではなく、赤坂〈東北学〉の大きな柱のひとつとしてずっと続けてきた。そこに震災が起こってできるだけ早く、できるだけ多くの人の体験を記録しておかなくてはならないのではないか、それも直接の被災者だけではなくて、例えばクリーニング屋さんとか富山の置き薬屋さんとかボランティアとか、さまざまな立場で被災地と関わった人たちの体験を記録しよう、と。そうでなければ被災体験集になってしまう。被災前からいまに至るまでの体験を、生活を記録しよう、そんな記録でなければ、いつかまた来る日のための役に立たないのではないか。被災者の聞き書きではなくて、被災地に関わった人たちも含めた「被災地の聞き書き」こそ僕らがやるべき仕事なのではないか。……
(赤坂は、巨大防波堤や高台移転などハードの復興だけではなく、「文化による復興」――博物館、資料館、デジタル・アーカイブなど――を目指す。また、文化の問題では、震災後すぐに民俗芸能が復活したことをあげている。なぜ祭りが再興できたか?
「東北の夏祭りのテーマはほとんどが鎮魂供養」だから)
【赤坂】被災地では呼びかけるまでもなく、どんどんお祭りが始まった。食うや食わずの状態からようやく立ち上がった人たちが何を求めたのか。そこを冷静に見つめればいいんですよ。芸能や祭りといった文化的なものが、被災地の人たちには絶対に必要なんです。あまり議論されていないけれど、神社やお寺の問題もあります。仮設住宅・復興住宅から地区の再建へとステップアップしていくなかで、間違いなく必要なのが神社とお寺と墓地なんです。それがなければコミュニティは魂のないただの抜け殻です。……
(土方も慰霊と鎮魂のために〈みちのく怪談〉プロジェクトを進めている)
【赤坂】……被災地では、幽霊譚や怪談が無数に生まれている。面白おかしく語られているのではない。二万人の犠牲者と和解するために必要とされている。死者たちと和解を遂げることなしには、いま生きている自分を許せない。偶然の分かれ目で自分は生き残り、あの人は亡くなってしまった、その現実に耐えられない。現実と折り合って、行き続けていくための幽霊譚や怪談は、決して不健全なものではない。ひとつの癒しなのかもしれない。宗教的行為だと思います。
(「荒蝦夷」のこれからの活動について)
【土方】どんな本を作っても、どこかで震災と関係せざるを得ない。いまさらながらの「復興にスピード感を」の掛け声にクビを傾けたくなったりもしています。三十二万人が仮設生活や避難生活を送る東北ですから、特にハード面では急ぐべきは急ぐのはもちろんです。「スピード感」を持ってもらわねばならない人たちがたくさんいるのも確かです。けれどもそれだけでいいのかどうか。立ち止まって〈いま〉を見つめる覚悟もまた求められているのではないか。なにせ長丁場です。五年、十年のスケールで考えていかねばならない。……

(平野)
◆ 2Fギャラリーのイベント
『あ〜ら、どうも。 神戸明生園作品展』 3.2(土)〜13(日)
 神戸市北区のしあわせの村にある障害者支援施設のみなさん。
「溢れ出るパワー、癒し、楽しさ、優しさ、ひとりひとりの想いがたくさん詰まった作品に、一人でも多くの方に触れていただけたらと思います。ぜひ、お気軽にお立ち寄りください。」