週刊 奥の院 2.1

今週のもっと奥まで〜 
■ 井上荒野 『それを愛とまちがえるから』 中央公論新社 1500円+税
 伽耶41歳、匡(ただし)42歳、結婚15年の夫婦、セックスレス。だが、二人とも愛人がいる。どちらも気づいている。
 匡が愛人・朱音(あかね)を家に連れてきているところに伽耶が帰宅。伽耶も愛人・誠一郎を呼んで親睦会(?)。
 夏、4人で海辺のキャンプ場。夕食中、匡が言う。「どうすればいいと思う?」。

……
 四人は激しく飲酒した。
 その点ではじめて一致団結したといってもいい。しかしそうなったのにはそれぞれの理由があるはずで、伽耶の場合は、匡の「どうすればいいと思う?」がスイッチだった。
 あの口調。あの表情。こうなったことに自分は一ミリも関与していない、と言わんばかりの。
「どうすればいいと思う?」と問いかけながら、その答えを自分が考えるつもりは毛頭ないのがありありとわかる。
「みんながもっと真面目になればいいのよ、人生に対して」
(態度がはっきりしない三人に向かって)
「決めるのよ」
 腹立ちのままに伽耶は言った。
「何を?」
 匡は聞いた。微かに薄笑いを浮かべていた。自分同様、伽耶も場当たり的に受け答えしているだけだと高を括っていたのだろう。
「今夜のことよ」
「今夜……」
 匡の目にはようやく怯えが浮かんだが、もう遅いわよ、と伽耶は思った。そして、言い放った。
「今夜、誰と寝るかよ」
「え」
「私もう決めたわ。発表するわね。私、誠一郎さんと寝るわ」
(テント分けは決まった。二つのカップル、二人きりになるが、する気にならない。伽耶が眠れず浜辺にいると、匡もやって来た)
伽耶
「眠れなくて」
(していないことがわかる)
「そんな気になれなくてさ」
「じゃあ、同じね。私もそんな気になれなかったの」
「ふつうなれないさ」
「どうして?」
「そりゃあ、僕らがお互いを大事に思っているからさ」
「大事? 私のこと」
「決まってるよ」
「ちゃんと、言って」
「愛してるよ」
 囁く自分の声に匡はぐっときた。その気分が盛り上がるままに、妻を抱き寄せて唇を重ねた。……

 これで「ハッピーエンド」とはならない。
 夫婦の仲が戻ったことを知って朱音は去る。匡は未練がある。誠一郎から電話はあるが、伽耶は誘いに応じない。
 夫婦がキャンプ後に初めてした翌朝、伽耶はしたことを思い出したことに傷ついてしまう。
「思い出さなければしたことを忘れてしまうような――もしかしたら忘れたいような――セックスだったからだ」
 進歩なのか退化なのか?
 誠一郎からの電話が鳴る。9回目の呼び出し音の前に受話ボタンに指を……。

◆ うみふみ書店日記(その5)
1月24日 木曜
休み。朝、歯医者。
妻がお雛様を出せとせっつくので、本日ご開帳。
娘はいないのに。娘の代わり?
そういえば、妻は明日から娘のところに行く。ほんなら、お雛さんは妻の代わり? ほたら、ワテは内裏さん?
夕方まで「奥の院」。

1月25日 金曜
高校の同級生Fが顔を見に。私と違って交際範囲が広いので、同級生の話をいっぱいしてくれる。
帰宅。
「あのドアを開けてみたって、あなたはいない。暗い闇が私を待ってるだけよ……」(「酒場にて」山上路夫作詞)

1月26日 土曜
常連Oさん、前回ご来店の時に「奥の院」を発見したと。ほんまに常連さんか〜?

1月27日 日曜
本日甲南大学で「成田一徹さんを偲ぶ会」。【海】からは店長が出席。
男性客さん。転勤で神戸に。前回当店の対応が丁寧で、本を買うならここと決めたと。お薦めの本はあるか? と言われるので、『冬の本』(夏葉社)と「郄田郁」を。自分でも無理やりやなあと思った。けど、買って下さった。
お母さんとお子さん。お母さんがいろいろ訊いてすみませんとおっしゃる。私「訊ねられてわからないことのほうが多いです。わかることなら」。このお母さんも『冬の本』を買ってくださる。
あとで文芸担当に訊くと、『冬の本』は土日によく売れているそう。遠くから来てくださっている。
前に書いた、年始に倒れた作家来店。
「ここで倒れたら救急車呼んで○○病院の××科に搬送してもろて」
私「連絡先、首からぶらさげといてください」
冗談が言えるなら大丈夫かな。
妻帰神。子どもたち元気。姉のところに居候していた長男も一人暮らしに。部屋は片付けていたとの報告。おみやげは洋食屋の弁当とPR誌『銀座百点』『本の街』。

1月28日 月曜
友人から、みんな揃っての「還暦会」の誘い。自分らで祝うん?

1月29日 火曜
現代思想研究者で詩人、Oさん久しぶりの来店でほんわか。「明日本」呑み会に出席してくださるそう。
ロードス書房さん来店、フェアの売れ行き好調で、追加をお願い。

1月30日 水曜
安岡章太郎死去の記事。
「明日の本屋をテキトーに考える会 新春シャンシャン召集」
南京町「赤松酒店」にて。J堂メンバーは棚卸しを控えて多忙ゆえ不参加。26名がワイワイガヤガヤ。

先週のベストセラー
1 村井康彦『出雲と大和』 岩波新書
2 水野敬也 『夢をかなえるゾウ2』 飛鳥新社
3 阿川佐和子 『聞く力』 文春新書
4 郄田郁 『あい』 角川春樹事務所
5 黒田夏子 『abさんご』 文藝春秋
6 伊集院静 『別れる力』 講談社
7 朝井リョウ 『何者』 新潮社
8 永田和宏 『近代秀歌』 岩波新書
9 江弘毅 『飲み食い世界一の大阪』 ミシマ社
10 白井明大・有賀一広 『日本の七十二候を楽しむ』 東邦出版
(平野)