週刊 奥の院 1.28

■ 『自選 谷川俊太郎詩集』 岩波文庫 700円+税 
 16歳から詩を書き、20歳で処女詩集。
 60年以上書き続けてきた詩のなかから173編を選ぶ。
 
「まえがき」より。

……この機会に自分の年齢による変化の跡をたどってみるのもいいかもしれない。また私はさまざまな文体で詩を書き分けているので、それも俯瞰してみたい。色んな思惑が渦巻いたのだが、いざ選び始めてみると、迷いもあまりなく、ほとんど即興的に選んでしまった。
 世間ではさほど評価されていないが、自分では気に入っている作がある。反対にたとえば教科書に採用されたりしているが、自分ではどこか不満を感じている作もある。自選の場合でも、目は自分自身よりも読者のほうに向けているつもりだが、作者と読者のあいだに存在する編集者の冷静な目も、私にとってはなくてはならぬものだ。こうして振り返ってみると、書くのはひとりでも、それを世に出すには沢山の人たちの助けがあったことに改めて気づく。
 私は嵩高い詩集を好まないので、この文庫が読者の方々の気軽な座右の、あるいはまた旅先の読み物になってくれることを願っている。

 カバーに手書きノートの「二十億光年の孤独」
人類はちいさな球の上で
眠り 起き そして 働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
火星人は小さな球の上で
何をしているか 僕は知らない
或はネリリし キルルし ハララしているか
しかしときどき 地球に仲間を欲しがったりする
それは まったく たしかなことだ

 
 解説の山田馨は元岩波書店編集者。距離をおいてつき合う関係だが、プライベートの問題で深く関わったこともある。退職後、詩について語り合った。
「笑いが絶えない、嘘のない対話になって、ぼくは、詩を語るとはこんなにもたのしいものかと知った」
 山田はこの対話を、『ぼくはこうやって詩を書いてきた――谷川俊太郎、詩と人生を語る』(ナナロク社、2010年)にまとめた。


「年頭の誓い」(『谷川俊太郎詩集』角川文庫、1968年)
禁酒禁煙せぬことを誓う
いやなやつには悪口雑言を浴びせ
きれいな女にはふり返ることを誓う
笑うべき時に大口をあけて笑うことを誓う
夕焼けはぽかんと眺め
人だかりあればのぞきこみ
美談は泣きながら疑うことを誓う
天下国家を空論せぬこと
上手な詩を書くこと
アンケートには答えぬことを誓う
二台目のテレビを買わぬと誓う
宇宙船に乗りたがらぬことを誓う
誓いを破って悔いぬことを誓う
よってくだんのごとし

他の文庫
■ 網野善彦 『宮本常一「忘れられた日本人」を読む』 岩波現代文庫 1020円+税 2003年岩波書店刊。
■ 山本作兵衛著 田川市石炭史料館監修 森本弘行編 『筑豊炭鉱物語』 岩波現代文庫 1160円+税 1998年葦書房刊。
中公文庫
■ 武田泰淳 『淫女と豪傑 武田泰淳中国小説集』 743円+税
■ 深沢七郎 『庶民列伝』 705円+税
■ 嵐山光三郎 『桃仙人 小説深沢七郎』 571円+税
■ 浅生ハルミン 『私は猫ストーカー』 838円+税
■ 山本益博 『名人芸の黄金時代 桂文楽の世界』 819円+税
■ 石井洋二郎 『告白的読書論』 743円+税
■ 秦郁彦 『漱石文学のモデルたち』 838円+税
■ 正宗白鳥 『文壇五十年』 800円+税
(平野)