週刊 奥の院 1.7

■ 長嶋有『本当のことしかいってない』 幻戯書房 2200円+税
装幀 緒方修一  装画 竹井千佳
 書評集、漫画から絵本、純文学。
1章 ぶつかりあう出逢い
ここからが文学 『小説のゆくえ』 筒井康隆  
他、 中村航 吉田修一 色川武大
……
2章 気づく瞬間
線 『アクロバット前夜90°』 福永信
他、『精選版 小学館国語辞典』 柴崎友香 藤野可織
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3章 そっと近づいてみると
無垢の裸 『そういかない』『神の仏もありませぬ』 佐野洋子
他、 坪内稔典 滝井孝作 宮崎誉子 いましろたかし
……
4章 くつろぐ部屋
何才までの本、何才までもの本 『ちょびひげらいおん』 長新太
絵本ベスト10
「二十二世紀に遺したい一冊は?」 『ドラえもん』 藤子・F・不二雄
……
5章 ふりかえる瞬間
群像新人文学賞・評 第52回〜54回
6章 好きになりすぎる
行け、ナオコーラロボ! 『カツラ美容室別室』 山崎ナオコーラ
他、 井上荒野 中村さやか 穂村弘
……

 いろんな作家の書評集が好きで、誰もが好きだろうと思っていたが、皆が皆、そうではないのらしい。最近は(といってもわずか十年ほどでの実感だが)書評集を出す作家が少ない。
 自分が読書家でないから、余計に人の読書ぶりを知りたいのかもしれない。人の書評で、その本に手を伸ばすこともあるし、そこで書かれた言葉から、書評者の考えや感じ方に触れて充実を得ることもできる。
 いつか自分も書評だけをまとめた本を、と思っていたが、まとめてみたら、通常の書評集とはありようが異なっていた。
 いわゆる古今東西、博覧強記というガイドのようにはならなかった。むしろ、文学や本に対しての僕の「考え」が執拗に綴られ続けている。
 そして自分でいうのもなんだが、これはどこか小説のようだ。

……
 私が「小説」のように感じたのは、色川武大『百』(新潮文庫の評。
 長嶋が高校3年の模擬試験に、色川武大『百』のなかの『連笑』という短篇が出た。『麻雀放浪記』よりも前に読んでいた。世はバブルまっさかり。

 変な言い方だが、若者はハングリーに飢えていた(原文傍点)。尾崎豊は振り絞るような声で「この支配からの卒業」を歌ったが「この」の指示するものは具体的に明示されない。なにかわからなくても、そこから逸脱していこうとする意思に聴き手はうたれたのだろう。

 長嶋は優等生でも劣等生でもない、運動や音楽ができるわけでもなく、友達は少ないが仲間はずれにされることもなく、「どの方向にも逸脱していない」。「逸脱」して不良になる選択はしなかった。
 元不良というのは後から回想するとき、自慢げである。

 不良の心理はおしなべてそういうものだと思っていた。だから色川作品の回想に満ちている謙虚さが不思議だった。学校をさぼって浅草に繰り出す。家の箪笥の中身を質に売ってしまう。それをすべて自慢ではなく「仕方のないこと」として語る。ギャンブルの天才なのに、負け方ばかりを語る。猛獣が弱い動物を食らう例えをしたら、すぐに弱って食われる自分に思いを馳せる。
 謙虚ではあるけど、色川作品における「逸脱」は、過去の甘い回想ではない。五十歳を過ぎてなお「命を代えても守りたいと思っている私独特の劣等の世界」を保持している。

 主人公にはきちんとやっている「弟」がいる。「撲れば泣くのに、そのくせどこまでもついてくる」。
 長嶋にもちょっとワルの兄がいて、作品の兄弟と似ている。

 兄弟というのは同じにはなれない。どっちかが駄目でどっちかが出来ても、それは元から備わっていた素質ばかりではない。どこかに「役割を担う」感じがある。
そのことを、お互いがなんとなく知っている。アウトローな自分だけでなく、こういう風に「弟」を書いてくれたのは、中くらいの僕にとてもよかった。逸脱しない人も、それでもなにかを担っているのだといってくれている気がしたのだ。

 模擬の成績はどうだったのか? いい点を取れなかった。

 大人になって読み返すと、点を取れないのは無理もなかったと思う。自分はどんどん博打の世界にはまりながら、弟に優越も嫉妬も感じない。ただ気持ちだけ執着している。「このときの気持ち」がたった一種類選べるような、そんな主人公ではないのだ。

書評は2003年。色川の他の作品が講談社文芸文庫に入った。長嶋の高校時代から12年ほど。

 バブルが終わって久しいのだなという実感はそんなところになぜかふと生じる。

(平野)
◆ うみふみ書店日記 (1)
1月4日(金)
初出社。
社長の言葉。我慢比べ、私たちはできることをやろう、健康第一。(ほんとはもっとあるんですけど、企業秘)
荷物は週刊誌だけかと思っていたら、注文品も多数。
朝一のお客さんは家族連れで広島から。ペンギンを見に来た、と。神戸にペンギンが漂流してきたわけではなく、動物園訪問。お嬢さんがペンギンの生態絵本、お父さんがレトロな絵葉書を多数を買ってくれました。
常連さんから早速差し入れをいただく。
郄田郁さん、初サイン入れに。1.7発売『あい』(角川春樹事務所)。初のハードカバーで、実在の人物を描く歴史小説。サインの間、いつもいろんな話をしてくださる。私が聞いたのは終わりの30分ほど。徳島取材旅行と身辺雑記。小説のモデル「関寛斎」について、徳島では知られていなくて、タクシーの運転手さんが親切にも、あちこち探し歩いて(走って)くれた。
身辺話。家で食材をいろいろ干すそうで、みりん干しはいい匂いがする。イカは……、私「そらあ、近所迷惑でっせ!」
地元の本屋で有名作家がサイン会をして、顔写真(ポスター)がバーンと貼り出される。
「わたし、できなーい! ゴボウやネギ持って近所歩けなくなるもん!」 
本、今年最初のベストセラーになりますように。(本の紹介は後日)
古書店ロードス書房」ご主人、フェア用古書納品に。今年は新島八重会津・幕末ものをお願いした。
1.5(土)
入荷は雑誌のみ。
昼過ぎ、常連さんが「寝てる人おるで」と教えてくれる。オジサン、ポケミスの前で寝てるというより靴片一方脱げて行き倒れ状態。もしものことがあってはいけないと、そっとやさしく「もしもし」と腕を叩いて声かける。やっぱり寝てはった。
「どこや?……○○まで帰らなあかんねん……」。寝ぼけてはる。
(大丈夫ですよ、元町です。昼○時ですよ)
一杯呑んでイイ気分でポケミス立ち読みしてたのが、しだいに姿勢が崩れて座って寝っころがってしまったよう。メガネもポケミスの棚に。カゼひかんように。
 12月最終週のベストセラー
1  伊集院静   別れる力  講談社
2  芝田真督   神戸懐かしの純喫茶  神戸新聞総合出版センター
3  阿川佐和子  聞く力  文春新書
4  東川篤哉   謎解きはディナーのあとで 3  小学館
5  村上龍    55歳からのハローライフ  幻冬舎
6  このミステリーがすごい! 2013  宝島社
7  大島堅一   原発のコスト  岩波新書
8  冬の本  夏葉社
9  水野敬也  夢をかなえるゾウ 2  飛鳥新社
10 郄村薫  冷血 上巻  毎日新聞社

 全国どこも似たようなものでしょう。あえて申す。地元本『純喫茶』と、社名「夏」やのに『冬の本』、よう頑張った。