週刊 奥の院 1.6

■ 須賀章雅 『貧乏暇あり 札幌古本屋日記』 論創社 1800円+税 
 
 1957年北海道伊達市生まれ。古本屋修業4年、86年「古書須雅屋」開店。97年から通信販売専門に。2004年に第4回古本小説大賞受賞。『北方ジャーナル』(http://hoppojournal.sapolog.com/)でエッセイ・小説を連載中。本書はブログをまとめる。

(帯)

業界30年、本音を語ります。
古本市、稀覯本、詩集、酒、バイト、インコ……
ネット古書店主による綱渡りの生態記録

 最初に店を開いたのは、3階建てビルの1階8坪、家賃8万円。北大キャンパスから少し離れた学生アパートの多い場所。

……大家さんの本業は易者さんでしたが、お坊さんのような風体で、三階の壁面には「〈幸運寺〉水子供養厄よけ解除」の文字が黒々と大きく記されておりました。隣接の建物には壁一面にくすんだ水色のペンキが塗られており、〈青い鳥〉なる屋号の、スナックではなく焼鳥屋が入っていて、夕方ともなると、換気扇から盛大に煙を吐いていたものでございます。〈青い鳥〉が隣にいる〈幸運寺〉で商売を始めた翌年のこと、知人の紹介があり、結婚もしました。その物好きな女性の父なる人は云ったそうです。「そんなに本が読みたいのか」と。まさか後年、本に追いやられて、娘が押し入れに寝かされる羽目になるとは思ってもみなかったことでしょう。……

 より好立地に引っ越すが、契約更新のたびに家賃が上がり、店舗をあきらめる。自宅マンションも売り、賃貸住宅で目録販売のみに。住居は倉庫化して、夫人は押し入れに。

……しかしそれでは暮しが立たず、弁当や、引っ越し屋、コンビニ倉庫で商品ピックアップ、荷役業、それに同業者の古本市手伝いなどのアルバイトをやって、現在まで凌いできた訳なのです。いつのまにか馴染みになった貧乏神はいつも一緒です。
……ビンボーを覚悟していた同居人も、これまでとは予想できなかったことでしょう。私を甘くみていたのです。いつか一緒に行こうなどと話していた本の街神田神保町にさえ連れて行かれない時が過ぎてしまい、最近はそんな約束は忘れたフリをしている始末でございます。……

 どんな商売も厳しい。
 2011年の日記から。

3月11日 金曜 ギシギシ
10時半目覚め。正午起床。(第一食のメニュー、テレビ国会中継、FAX受注)……2時40分過ぎに寝室に入り本を探していたところに、微かな揺れを感じる。地震と気づき、居間に戻りPC周りの本の山を両手で押さえる。……ずうっと揺れが続き不気味、果てしなく続くのではと思われ、まだ終わりたくない、と恐怖味わう。こんなに長い揺れは初めてだ。
3月13日 日曜 本どころじゃない。
午前11時半目覚め。(第1食のメニュー)午前中、郵便局から電話あったと妻のメモ。本州と北海道太平洋沿岸への発想は受けられないとある。……地震で世の中、本どころじゃないところへ発送ができないとは。
3月14日 首都交換会中止
3月15日 イノチも寝場所もある身とはいえ
3月17日 妻が蔵書を売りに
3月18日 納付期限(国民健康保険の保険料督促)
3月19日 土曜 初受注
午後2時半目覚め(二度寝、食事メニュー、同業者メール、妻通院……)
本日の気温、0.1〜9.9℃。11時過ぎ、震災以後、初の注文来る。唐沢俊一『育毛通』。……

 しんどい。けど、本出せるのだから大丈夫……! でしょ?
(平野)