週刊 奥の院 2013.1.1

 新年おめでとうございます 
 本年もなるべく毎日書くよう努めます。
 
 2013年のスタートは、
■ 大岡信 『瑞穂の国うた――句歌で味わう十二か月』 新潮文庫 630円+税
 1年12ヵ月、日本の詩歌をめぐるエッセイと芭蕉・子規・漱石・虚子についての論考。

「お正月」という言葉は現代でも生きていますが、お正月とはどういうものか、どういう感じかを、いまの子供たちはほとんど知らないのではないでしょうか。
「正月」と言わずに「お正月」ということじたい、お正月ということばの意味や語感を特殊なものにしています。……わざわざ「お正月」と言った、その節目の意味が、いまではすっかりと言っていいほど忘れられている、というか、無視されてさえいるようです。
(年齢の数え方が変わった)
 お正月にはだれもが歳をとるということ、――「ああ、これで何歳になった」ということをいっせいにみんなが感じるということは、とても大事な感覚だと思います。
(現代人は、一人一人、何歳何か月……でばらばらで、「人生をだれの力も借りずにきちんと一人で生きますよ」という感覚で暮らしている)
 お正月になったからといって格別新しく感動することもないし、感動なんかしているのはむしろ古めかしいことであって、正月だ正月だといってうれしがってもいられない、という感じにもなるでしょう。しかし、そういう合理主義では割り切れない現実が厳然としてあるからこそ、お正月なのです。

 その感覚は、祭りや年中行事のすべてにも言える。たとえば俳句の季語は旧暦であるから、行事や季節の感覚と現実に「ずれ」がある。しかし、大岡はそういうフィクションの世界があることを認め、その世界で遊ぶ。その「ずれ」のなかに詩を感じる。
 本書にある、お正月の名句を。
いざや寝ん元日はまたあすのこと  与謝蕪村
元日やくらきより人あらはるゝ  加藤暁台
正月の子供に成(なり)て見たき哉  小林一茶
目出たくも酒は氷らぬためし哉  加舎白雄(かやしらお)
日の春をさすがに鶴の歩みかな  榎本其角

……

加留多歌老いて肯(うべな)う恋あまた  殿村菟絲子(としこ)
 作者は明治四十一年(一九〇八年)東京深川の生まれ。「加留多」とは『小倉百人一首』のカルタのこと。『百人一首』の五割近くが恋の歌です。昔はあまりしみじみと感じなかったけれど、老いてからはどの恋歌もそれぞれ自分の気持ちにすっと落ちてくるところがあるという意味の句です。「老いて肯う恋あまた」という言い方のなかには、落ち着きと、ある種の距離感があって、それが正月の句をめでたくしています。……

解説 俳人長谷川櫂 
櫂さんの本は明日。
(平野)
【海】1日・2日休業。3日より平常通り営業いたします。
 HP更新。 http://www.kaibundo.co.jp/index.html
紙版「海会」は3日より配布します。今回「海の本のコーナーより」が連載100回で、1ページ独占拡大掲載。
じゃによって、「本の生一本」と「本屋の眼」はHPのみです。また、「わたしの棚」が半年ぶりに更新です。
 私事、外部の定期連載は終わりました。唯一、みずのわ出版HPの「本屋漂流記」は継続します。といっても1年に2回くらいです。【海】HPと紙版「海会」の「本屋の眼」も続けます。
 まだやるんやん! 本年もよろしくおつきあいください。