週刊 奥の院 12.25

■ 『ふるさと文学さんぽ 大阪』 監修・船所武志 大和書房 1700円+税
かたり 
 くっすん大黒 町田康  ネンをつけたらよろしいねん 尾上圭介  崇徳院 桂米朝 
あきんど
 がめつい奴 菊田一夫  波風静かに神通丸 井原西鶴  船場狂い 山崎豊子
くらし 
 タコにのったお地蔵さん 〔民話〕  泥の河 宮本輝  ぼんぼん 今江祥智  アド・バルーン 織田作之助  じゃりン子チエ はるき悦巳
まつり 
 春の彼岸とたこめがね 小出楢重  激走! 岸和田だんじり祭 江弘毅  河内音頭 富岡多惠子
くいだおれ
 道頓堀から法善寺横丁 森まゆみ  世界初の「即席麺」チキンラーメン 井上理津子
ながめ
 天游 蘭学の架け橋となった男 中川なをみ  春風馬堤曲 与謝蕪村  北港海岸 小野十三郎  蘆苅 谷崎潤一郎
 川端康成ノーベル文学賞受賞記念講演(抜粋)が巻頭に。
 装画・長谷川義史「橋の上と下で」
 バラエティに富む19名。選ぶのがたいへんだったことでしょう。
「がめつい奴」より。

(お鹿) ええか、テコ。
(テコ) うん。
(お鹿) おばあちゃんが毎日一円宛(づつ)払うて、お前におカラを買いにいかせるのは、中味のおカラを食べるのやけど、外包みのポリチリリンの袋を、こなして、梅干包むために集めるのやで。壺の中にお札を隠していても、上に梅干をのせておけば、誰もその下にお札が入ってるとは思わへんやろ……そやけど、お札の上にいきなり、梅干をのせたんでは、お札がぐしゃぐしゃになってしまう。そやさかい、少しずつ梅干をポリチリリンの袋に分け入れて、そしてお札の上にのせて隠すのや。……
(お鹿ばあさんは孤児のテコを養う。「息子も娘も信用せえへん、テコだけ、信用してるねんさかい……」と、お札を乾かしながら、誰にも教えるな、裏切るなと諭す)
(テコ) おばあちゃん……うちを拾うてくれたんやろ、うちおばあちゃん好きや。
(お鹿) おばあちゃんがどんなに怒っても好きか。
(テコ) 好きや。
(お鹿) おばあちゃんが、おばあちゃんの財産テコになんぞやらへん言うても好きか。
(テコ) 好き……おばあちゃんは、テコを拾うてくれたから好きや。
(お鹿) 大きに……可愛い子やな、おばあちゃんもテコが好きや。おばあちゃんと仲好うしような。
(お札が燃え出す)
 ……

 1959年の作品。お鹿を三益愛子、テコを中山千夏が演じ、連日満員。
「がめつい」は、
「強欲で抜け目のない、ごまかす意味のガメル、にツイをつけて形容詞にしたもの。」(牧村史陽編『大阪ことば事典』・講談社学術文庫)菊田の造語で本来の大阪ことばではない、という記述も。
 菊田(1908〜1973)は幼少時に養子に出され、少年時代は丁稚奉公を体験。大正9年、12歳で大阪の薬種商、ここで「がしんたれ」(甲斐性なし、能なし、役立たず)と言われ殴られ3ヵ月働く。続いて神戸元町の美術商、ここは主人が温厚で夜学に通わせてくれた。近所の本屋の丁稚さんと仲良くなる。その店が当時神戸を代表する本屋「日東舘」。詳しくは彼の自伝的作品『がしんたれ』を。「日東舘」についてはこちらに少し。「みずのわ出版」HP内「本屋漂流記」第3回。 
http://www.mizunowa.com/soushin/honya.html
(平野)
アニメ「じゃりン子チエ」のチエの声も中山千夏だった。