週刊 奥の院 12.19
■ 『こころ』 Vol.10 平凡社 800円+税
特集 日本酒ばんざい
●蔵元探訪 会津に“飛露喜”を訪ねて 森まゆみ
●ありし日の文士と酒――文壇酒徒交遊録 大村彦次郎
●ほろよい落語――お酒の噺のたのしみ方 くまざわあかね
●酒呑童子の飲んだ酒? 高橋昌明
●酔う酒から味わう酒へ――質と量にみる日本酒人気の盛衰 竹内洋
●灘〜伊丹〜池田の酒蔵めぐり
飛露喜は会津坂下(ばんげ)にある「廣木酒造」の酒。
……この酒は香りが高く、しっかりしていて、味が濃い。女だましのフルーティな酒とも違い、飲みごたえがあり、ふくよかだった。
「酸いも甘いも知った気っぷのいい女」とでもいうのだろうか?
年間生産量1400石(14万本)。毎月の発売の日には行列ができる。通常「品切れ」状態。
文士と酒
井伏鱒二は若い頃、2歳上の牧野信一に酒の席でからまれた。牧野は葛西善蔵に私淑。葛西は酒乱で有名で、周囲の者は泣かされた。牧野が井伏をやっつけているところを、葛西と同人仲間だった谷崎精二が眺めていた。一言、
「なあんだ、牧野君のカラみかたは、昔の葛西とそっくりじゃないか。いじめかたまで葛西をマネたかね」と、言った。これにはさすがの牧野もとどめを刺されて参ったか、沈黙せざるを得なかった。
山口瞳のエッセイ「酒呑みの自己弁護」。山口はご存知のとおり開高健らと寿屋でウィスキーの宣伝。
……山口のめざしたトリス・バーとサントリー・バーの第一条件は女給のいない酒場であった。清潔なバーを育て、優秀なバーテンダーをつくるために、必死になって働いた。(高度成長期から酒場の様相が変わる。酒呑みが卑しくなり、堕落した。社用族が接待費で呑む)
……そう、言いながらも、わが身も社用族の一人になっていることに気づく。この内心のうしろめたさを何とか克服しようと思って、さまざまな酒呑みの自己弁護を試みる。山口の言い分の面白さは着流しの文士が市民社会になって、いろいろ辻褄あわせて生きなければならなくなった、屈折したとまどいのありかにある、と思うが、どうだろう。
(平野)酔っぱらったらいい、というもんじゃあおまへん。