週刊 奥の院 11.21

■ 紅野敏郎他編 『日本近代短篇小説選 大正篇』 岩波文庫 800円+税  
 紹介をサボっているうちに、「昭和篇」3冊刊行すみ。
大正篇の目次
田村俊子「女作者」  上司小剣「鱧の皮」  岡本綺堂「子供役者の死」  佐藤春夫「西班牙犬の家」  里見紝「銀二郎の片腕」 他、広津和郎有島武郎久米正雄芥川竜之介宇野浩二、岩野泡鳴、内田百輭菊池寛川端康成葛西善蔵葉山嘉樹
 解説・千葉俊二 
 

 大正が終わった翌年の一九二七年(昭和二)、大正文学の雄だった芥川竜之介谷崎潤一郎とが、小説においてもっとも大切な要素は何かということをめぐって論争を繰りひろげた。谷崎は「改造」の二月号から連載をはじめた「饒舌録」で、小説がもっとも多量にもち得るのは「筋の面白さ」、いい換えれば「構造的美観」ということで、これを除外するのは「小説という形式が持つ特権を捨ててしまう」ことだと主張した。これに対して芥川は、同じ「改造」の4月号から「文芸的な、余りに文芸的な」を執筆しはじめ、「『話』らしい話のない小説」こそ通俗的要素の少ない、もっとも純粋な小説だといい、問題はその材料を生かすための「詩的精神」であるとした。……
(芥川の死で論争は打ち切り)
 大正期を代表したふたりの作家がみずからの実践をとおして小説のもっとも大事な核として「筋の面白さ」と「詩的精神」を抽出したということははなはだ面白い。小説(ことに短篇)という形式は、もともと「筋の面白さ」とそれを生かすための「詩的精神」が不可欠な要素として結合したものと思われるからだ。……


■ 豊下楢彦 『「尖閣問題」とは何か』 岩波現代文庫 1020円+税 
 関西学院大学教授、国際政治論。
 尖閣領有権をめぐる、日・中・台の主張を再検討し、日本の領土であることを論証。
なぜ、アメリカは「中立」の立場をとってきたのか、政治的背景の分析とアメリカの戦略の意味。
尖閣購入」問題と「国有化」決定狂騒曲。
 さらに、北方領土竹島、米中関係、日本外交の今後。
尖閣問題」では日本の政界・メディアに大きな欠落があるという立場。

 尖閣諸島五島のうち、二島を訓練場として日本から提供をうけながら、米国は、これらの島々がどこの国に属するものか「立場を明らかにしない」という態度をとり続け、日本政府は事実上、その立場を“黙認”しているのである。

(平野)