月曜朝礼 新刊紹介

【文芸】 クマキ 
■ 小川洋子 『ことり』 朝日新聞出版 1500円+税
 12年ぶりの書下ろし長篇小説。
 他人には理解できない言葉を話す――自分で編み出した言語――兄と、唯一それを理解できる弟――小鳥の世話をする「小鳥の小父さん」――の物語。
「小さな、ひたむきな幸せ」

「なぜ分かるの?」
 母親は何度も弟に尋ねた。しかし弟はもじもじするばかりで答えられなかった。
 なぜ分かるのか。母が死に、お兄さんが死んだあとになっても時折、小父さんはその問いについて考えてみたが、やはり適切な理由は思い浮かばなかった。そもそも分かる、というのがどういうことなのかがあいまいだった。小父さんにとって、その言語は、自分のすぐそばにお兄さんがいるのと同じくらいの確かさを持っていた。威風堂々として、ごく自然で、どこにも疑問を差し挟む余地はなかった。お兄さんが一言発すれば、小父さんの鼓膜は相応しい形に窪み、それを受け止め二人の間を秘密の信号で結んだ。兄弟の鼓膜には、二人だけに通じる、生まれる前からの約束が取り交わされていた、としか言いようがない。……

 どんな言葉? ポーポー語――兄が好きだった棒つきキャンディの商品名から――、小鳥の囀りに似ているらしい。

「小鳥の歌は全部、愛の歌だ」
 といつかお兄さんが教えてくれたのを小父さんは思い出す。愛の歌、などというロマンティックな言葉を、お兄さんがさり気なく口にしたのがなぜか気恥ずかしく、小父さんは「へえ、そうなんだ……」とあいまいな受け答えしかできなかったが、十姉妹の鳴き声を聞けば、これが愛のための歌であるのは明らかだった。愛以外のために生き物はこれほど懸命になれないだろう、と思える切実さにあふれていた。
 お兄さんは耳を澄ませている。求愛の行方を見守っている。……

(担当)言葉で表現できないものを小説に。「小川洋子」らしい作品。

■ 有川浩 『旅猫リポート』 文藝春秋 1400円+税 
 青年と猫が主人公の「心にしみるロードノベル」。演劇ユニット「スカイロケット」のための作品、2013年4月舞台化。 http://www.unit-skyrocket.com/
 装画・村上勉  装幀・大久保明子  写真・中居菜央
 青年と野良猫の初対面。

……
 ぽかぽかのボンネットでぐるりととぐろを巻いていると、ふと暑苦しい視線を感じた。ちらりと薄目を開けると――
 ひょろりと背の高い若い男がとろけるように眼を細めて僕の寝姿を眺めていた。
「お前、いつもここで寝てるの?」
 まあね。何か文句ある?
「かわいいなぁ」
 まあね。よく言われるよ。
「触っていい?」
 そいつはごめんこうむる。シャッと軽く前足を振り上げて威嚇すると男はケチと唇を尖らせた。そんなこと言われたって、寝てるときになでくり回されたらお前だって鬱陶しいだろ?
「タダじゃ駄目ってことかな」……

 コンビニのカツサンドをご馳走になり、それから毎夜食べ物が置かれる。
 猫は車に撥ねられ青年に助けられて、そのまま飼われるが……。

(平野) 
■ 川上徹也 『本屋さんで本当にあった心温まる物語』 あさ出版 1300円+税
 本屋を舞台にした「ちょっといい話」28編。 
大震災後、子どもたちに順番に読まれた『少年ジャンプ』
本屋で出会った理想の女性
万引き少年に本気で説教するオジサンたち
史上最大の閉店物語
本屋がなくなってしまった町でお母さんたちが誘致活動 他
 著者は、本屋に足を運んでほしいという願いで出版。
 仙台「荒蝦夷」の話で【海】(神戸のK書店で)登場、私はHで。スケベオヤジで悪かったね!

(おしらせ)
■ 12月の古本市決定。
● 第14回 海文堂の古本市 12.1〜12.9  
参加書店 やまだ書店 一栄堂書店 イマヨシ書店 あさかぜ書店 つのぶえ カラト書房 マルダイ書店 ブックス・カルボ

● 第15回 海文堂の古本市 12.28〜2013.1.9
参加書店 やまだ書店 一栄堂書店 イマヨシ書店 図研 つのぶえ カラト書房 マルダイ書店 ブックス・カルボ 音無書店

 レギュラー陣に加え、初参加店がズラリ。

■ ブラッドベリ追悼小冊子、晶文社から「レイ・ブラッドべり Live Forever!」到着。
「外国文学」コーナーで無料配布。