週刊 奥の院 11.12

■ 宮本常一 『周防大島昔話集』 河出文庫 760円+税 
 宮本は山口県周防大島出身。本書元版は、昭和31(1956)年母上の77歳を記念して大島文化研究連盟により謄写版で刷られた。昭和60(1985)年瀬戸内物産出版部より活字出版。
 宮本が幼少時に祖父、父母からきかされた話を中心に近隣の人たちが採集したもの、古老たちからきいたものなど、郷土に伝わるむかし話。筆録したのは昭和5年から15年頃。宮本が20代前半から30代にかけて。
「百合若大臣」
 宮本と近隣の人が採集していた話と、古老・山西老婆に語ってもらったものを掲載。細かい部分がちがうのと、老婆は説教節など「語り」の影響を受けていて、その語り口は「老婆の秘伝というべきもの」。船乗りだった老婆の主人が豊後で聞い来た話だとか。
 筑前の国の殿様・百合若が豊後の湯(別府)に湯治に行き、日向の橘姫と出会い夫婦になる。もろこしこうらい国の鬼が筑前で悪さをするので、百合若が征伐に行く。ところが、一の家老が船を乗り逃げ、百合若は取り残される。

……仕方がないけ、ししやなんかをとって食うて命をつないじょったといの。
 ところが大つごもり(大みそか)の晩に筑前の漁師が、金だんすが、もろこしこうらい国へ流れついておるつう夢をみて、三丁ろで漕いで来たんじゃの。来て見ると、あんた何が金だんすがあろうぞいの。百合若大臣がおるだけじゃが。百合若大臣のほうじゃァ大喜びよの。……

 百合若は漁師に連れて帰ってもらい、風呂たきになる。豊後の殿様と筑前の殿様が弓の試合をすることになって、侍が集められる。百合若も見物に行く。侍たちの矢は当たらない。百合若が野次を飛ばすと、筑前の殿様が百合若に弓を引かせる。

……ところがあんた、百合若大臣は剛の者で、五人ばりの弓ひきじゃから、一人張の弓はポキポキ折れてしまう。そこで殿様が「ゆり(百合若)の弓をもって来い」というて家来にとりにやった。百合若が見れば自分の弓でごいすけにのう、おし頂いて、そいから的をうたんと殿様をうってしもうたんじゃいの。
 殿様つゥんが、乗り逃げした一の家老じゃけにの。悪いたくなみ(企み)つうもんはするもんじゃァごいせん。これでおしまい。

 橘姫がどうなったのか気になる。
 みずのわ出版Y社主は周防大島出身で、昨年神戸から拠点を島に移した。彼に朗読してもらいたい。
(平野)