週刊 奥の院 10.29

■ 広瀬毅彦 『既視感(デジャブ)の街へ  ロイヤルアーキテクト ゲオログ・デラランデ新発見作品集』 ウインターワークス 4500円+税 *当店での販売は終了いたしました。(2013.2.5) 
 ゲオログ・デラランデ(1872〜1914)は横浜で建築事務所を開いたドイツ人。北野町「風見鶏の館」など多くの建物を設計した。
 著者は1960年芦屋生まれ、芦屋れんが博物館館長、ドイツ・ブランデンブルク在住。本書はドイツで出版したもの。2009年『風見鶏謎解きの旅』(神戸新聞総合出版センター)出版。観光名所「風見鶏の館」にかつてNHKドラマで描かれたストーリーとはまったく違う歴史があること、建築年代に誤りがあることを検証した。
 デラランデの故郷ヒルシュベルグポーランド・イェレニアグラ、旧ドイツ領)を訪れ彼の作品(40棟以上、改築を含むと70棟以上)を発見(同地の市民たちの援助があった)、また横浜でも設計図を発見した。一方、東京で彼が暮した洋館――彼の作品とされているものが、実は日本人の設計であることもわかった。
「風見鶏の館」も東京の洋館も文化財。著者が純粋に検証してみると、大きな矛盾が出てきた。「捏造」すらある。
序  デラランデ没後百周年記念出版に際して 
第一章 地図から消えていた故郷
第二章 デラランデ七不思議
謎・其の壱 デラランデを日本へ導いた謎の古城
謎・其の弐 恋文としてのデラランデ作品
謎・其の参 行方不明のデラランデ横濱自宅写真を追う
謎・其の四 横濱VS神戸 ゆかりの地はどちらに軍配?
謎・其の五 信濃町「デラランデ邸」はデラランデ作品ではなかった
謎・其の六 デラランデの同郷の大親友は朝鮮王朝御典医だった
謎・其の七 新発見作品が物語るデラランデとヴォリーズの師弟関係
第三章 ポーランドで発見したデラランデ事務所建築作品集
第四章 デラランデ・マジック
結語  ポーランドの一郷土史研究としてバウマイスター最終世代を飾ったデラランデ
全457ページの大著。写真図版多数。
 ドイツでは、歴史的な建築家をバウマイスターと呼び、偉大な建築家というニュアンスでこれを使うそう。
 

マイスターの語感から想像されるように、単なる建築士とか建築学の教授といった、専門職を意味するのではなく、文字どおり経験豊かな、手工業的にも建築全般に熟達した、オールラウンドな建築家をこの言葉はさしている。……

 デラランデの父親は左官の親方。「物心ついた時から、煉瓦や漆喰を遊び道具に育ってきた、根っからの職人気質」。デラランデは「手作りで建築を作る最後の世代」で、設計図面を見ると細かい建物意匠まで「すべて一人の頭から湧き出てきたものが描き込まれている」。
 ヨーロッパの煉瓦造建築はくり返し修繕される。彼の作品も大切にされている。

……現代のポーランドの街を歩いているはずが、実は百年前の古いドイツの街を散策していることになり、さらにこれらが横濱や神戸に建っていた異人館と姉妹関係にあるという不思議な感覚、既視感(デジャブ)の街。……
 日本人が、ドイツ建築に触れたばかりの、まだ新鮮な時代の感覚が、こうしてヒルシュベルグの彼らの作った街並みを逍遥するうちに、体中に甦ってくる。日本での作品は消えてしまっても、ポーランドには、そっくりそのまま残されていた僥倖に、心から感謝したい。……

(平野)