週刊 奥の院 10.19

■ 金沢英之 『義経の冒険  英雄と異界をめぐる物語の文化史』 講談社メチエ選書 1700円+税 
 
 平家の棟梁が清盛で源氏の棟梁が頼朝でも、彼らが歴史上の重要人物であっても、源平合戦のヒーローはやっぱり義経
 著者も、

……日本の文学・芸能の歴史を通じ、もっとも知られ、かつ人気のあった英雄といえば誰だろう。様々な名前が挙げられようが、ただ一人といわれれば、やはり源義経に指を屈するのではないか。中世の軍記物語に『義経記』があり、謡曲に『八嶋』や『船弁慶』があり、近世の浄瑠璃・歌舞伎を代表する『勧進帳』や『義経千本桜』があり、近代に入ってからも義経ジンギスカン説が学会を賑わし、現代にいたってなお、大河ドラマの主人公を一度ならずつとめている。これほど時代の移り変わりを越えて人々の関心を惹きつけつづける存在も稀だろう。

と語る。
 著者、1968年生まれ。北海道大学大学院文学研究科准教授、専攻は上代文学。
 本書でとりあげるのは、『御曹子島渡(おんぞうし しまわたり)』という御伽草紙。江戸享保年間に刊行されたもの。「御曹子」とは義経のこと。中世から近世の物語・芸能の世界では「御曹子」=「義経」。それほどの人気キャラクター。
 ストーリー。義経が活躍する少し前、奥州藤原氏のもと平家討伐のため、蝦夷ヶ島・鬼の大王が持つ兵法奥義書「大日の法」をめざす。不思議な島々をめぐって、たどりついた鬼の都で大王に笛の才を気に入られる。「大日の法」を得るため大王の娘と夫婦の契りを結び、彼女の力で入手成功。しかし、彼女は命を落とす。義経は兵法を用い大王から逃れる、という波瀾万丈の物語。
おとぎばなし」だが、さまざまな疑問・謎を探求。
目次
1 『御曹子島渡』の謎  2 鞍馬の山奥から  3 東北というトポス  4 兵法書の秘密  5 中世都市京都の周辺  6 吉備真備入唐譚をさかのぼる  7 蝦夷ヶ島

 大国主命神話との関連、鞍馬毘沙門天信仰と鬼の伝承、坂上田村麻呂の伝説、兵法の秘術書と吉備真備陰陽道蝦夷ヶ島航海と鬼……。
 壮大な英雄物語のなかに鎮魂の思いが込められ、異界――東北、蝦夷、外国――との接触・交流が描かれている。
(平野)
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 決定
 詳細後日。