週刊 奥の院 10.10

■ 松岡正剛 『松丸本舗主義 奇蹟の本屋、3年間の挑戦。』 青幻舎 1800円+税 
 2009年10月、丸善丸の内本店に、編集工学研究所所長・松岡プロデュース「松丸本舗」がオープンした。3年経った本年9月30日閉店。
 松岡は広告営業マンから、71年工作舎設立、雑誌「遊」創刊。87年編集工学研究所。2000年からweb上で書評「千夜千冊」開始。幅広い分野に精通し、「編集工学」を提唱。「知の巨人」と言われる。

 書店の中に書店をつくるのだから、たんなる本屋ではない。松丸本舗セレクトショップなのだ。たんなるセレクトショップではない。服装や雑貨を売るのではなく、本を売る。「本のセレクトショップ」だ。……
 かつて詩の本ばかりを並べたパルコ・パロウルや、キクチくん(菊地敬一)が名古屋ではじめたヴィレッジ・ヴァンガードや、谷中・根津・千駄木一箱古本市や、左翼系の本を揃えた本屋などがいろいろ思い出されたが、しかし、丸善の四階に誕生するのは、そういう何かの分野に特化したブックショップ・イン・ブックショップではないだろうと思った。
 おそらくは、選書の仕方と本棚の在り方と本の並べ方とが独特に連動したものにならなければならないのだ。ようするにソフトウェアとハードウェアをできるかぎり合致させる試みをすること、それが松丸本舗なのだ。
 いや、それだけでは足りない。そこには「人」が独特でなければならない。従来型の書店員だけではダメだ。エディターシップが必要だ。……“本のような人たち”が必要なのである。“本な人”が必要だ。……

 目次
夢か幻か 福原義春
第Ⅰ章 松丸本舗の旋法――われわれは何に挑戦したのか
千夜千冊の夜 ブックウエアの誕生 本棚をつくる 本屋の問題 ほったらかしの読書 意外な状態 他
第Ⅱ章 松丸本舗・全仕事――一〇七四日・七〇〇棚・五万冊・六五坪
1 本屋のブランドをつくる  2 本棚を編集工学する  3 本と人をつなぐ  4 目利きに学ぶ  5 「物語」を贈る  6 共読の扉をひらく
第Ⅲ章 気分は松丸本舗――各界からよせられたメッセージ
第Ⅳ章 松丸本舗クロニクル――本だらけ、本仕込み、そして松「○」本舗
全510ページ超。

 方針をまとめた松丸本舗「九条の旋法」というのがある。
1 「本棚を読む」という方針を貫く。  本棚に並ぶ本・隣り合う本どうしの関係を読む。
2 「本」と「人」と「場」を近づける。  基本は店の人とお客。客は実は読者。棚には著者が潜在。著者と店員と読者が交流。
3 「本のある空間」を革新する。
4 「本を贈り合う文化」を発芽させる。
5 「読者モデル」をスタートさせる。 著名人・一般読者の蔵書を公開。
6 「ブックウェア」を創唱する。  本にかかわるハード・ソフト・ヒューマンを重ねた状態表わす造語。本を1冊単位ではなく、連鎖や歴史のなかでのつながりとして見る。
7 「本と読書とコミュニケーションの方法」を重ねる。
8 「共読の可能性」を提示する。  造語。読み聞かせ、読書会、朗読会など。
9 「ハイブリッド・リーディング」の先端を開く。  リアル本・デジタル本の連動。

 多くの話題を提供したが、2010年、書店業界再編でD印刷やMやJの組織の問題で、「松丸」のしくみも変わっていく。カネの問題と人事=社長交代やスタッフ異動など。
 トップが代われば、現場は見直されてしまう。前任者の約束なんて、「ちゃら」なんでしょう。
 さきの「九条」についてメッセージ。

……九つの旋法がいきいきと奏でられさえすれば、どんな形や規模になっても、どこに飛び火しても成立するものなのだ。……おそらく松丸本舗はさまざまな姿をとって、これから再生され派生されていく。

 web「千夜千冊」10・4で、故草森紳一『本が崩れる』(文春新書)を取り上げている。草森追悼と供養の文章を捧げ、閉店の思いを述べている。
http://1000ya.isis.ne.jp/1486.html
(平野)