週刊 奥の院 9.20

■ 千葉惣次=文 大屋孝雄=写真 
『東北の伝承切り紙 神を宿し神を招く』 平凡社コロナ・ブックス
 1800円+税
 大震災で被害を受けた神社の貴重な伝承文化を記録する。宮城県18社、岩手県8社、福島県1社。 
 赤坂憲雄「東北の伝承文化に寄せて」より。
 赤坂は震災後の4月初めから被災地を訪ねる旅に出た。
 宮城県南三陸町の小さなムラでは、住民が瓦礫の中から鹿(しし)踊りの衣装や太鼓を探し出し、洗い清め、避難所で踊った。各地で同様に民俗芸能が復活した。
 

 だれもが涙を流した。生きとし生けるものたちの命の供養のために捧げられてきた鹿踊りが、すべてが津波に奪われたムラに真っ先に戻ってきたのである。……民俗芸能はどこでも、後継者が不足していて、継続することそのものが危ぶまれていたのではなかったか。……
 復活した理由のひとつは、あきらかだ。それらの民俗芸能が死者たちの鎮魂・供養、厄除けなどをテーマにしていたからである。それがたんなる祝福の芸能であったならば、これほど早い復活はなかったかもしれない、と思う。

 赤坂は復興過程での宗教施設の役割を考える。民俗芸能は神社・寺と深くかかわって受け継がれてきた地域の精神的な・宗教的な文化の核。
 伝承切り紙も、神と人を繫ぐ宗教の祭具。多くの神社が被災し、氏子たちも離散。本書に「わずかな姿を留めて、消えてゆく」ものもあるかもしれない。
 
 ヌサ、ミテグラ、御幣など。神の象徴、神を迎える、聖なる場所、縁起、厄祓い、願う、力を合わせる、寿ぐ、心を潤す、……、神との豊かな交わりのための役割がある。
 東北地方でしか見られない「網飾り」という立体的で複雑な正月飾りがある。氏子の家のお守りとして一年間神棚に飾られた後、新しいものに取り替えられ、小正月左義長で燃やされる。古い作品は残らない。だからこそ本書の意義がある。
 中国から伝わった縁起物の剪紙の影響もある。神道密教が入り混じり、修験道の行者が切り紙やら神楽などを伝えたのだろう。彼らは明治になって修験禁止令によって打撃、細々と伝統を守った。東北――宮城と岩手がその伝承切り紙の宝庫。
 一関の熊野神社宮司が作るもの。一枚の紙、広げると上下左右とも2.5〜3メートル。
「煤で黒くくすんだ高い天井から吊り下げられた正月飾りには、数々の縁起物が全体に散りばめられ、まるで風に吹かれて揺れ動く柳の枝のようでもあり、流れ落ちる滝のようでもあった。……」
 南三陸町の戸倉神社。鯛と扇の組み合わせで「恵比須」を表す。漁業の神。
 同町の計仙麻大嶋神社(けせんまおおしま)の「十六下げの大飾り」。鯛、扇、升、銭など縁起物がたくさん。「小飾り」を三連飾ったり、「大飾り」と組み合わせたり。
 豪華な飾りは本書を見ていただくしかない。検索したら下記の写真が見つかった。
http://www.idee.co.jp/ihp/blog/20090511.html
http://www.thm.pref.miyagi.jp/infor/institution/konnoke/newyear.php

(平野)
 ヨソサマのイベント
■ 小松益喜と歩く神戸風景 9・22〜12・28 神戸ゆかりの美術館(水曜休館) 入館料:一般200円 小中高生・65歳以上100円  
http://www.city.kobe.lg.jp/culture/culture/institution/yukarimuseum/