月曜朝礼 新刊紹介

【文芸】 クマキ
■ デビット・ゾペティ 『不法愛妻家』 新潮社 1600円+税 
 1962年スイス生まれ。ジュネーブ大学日本語学科中退、同志社大学で国文学専攻。日本のテレビ局記者、ディレクター。96年「いちげんさん」すばる文学賞芥川賞候補、2000年「アレグリア三島賞候補、01年「旅日記」エッセイスト・クラブ賞。両親ともバイリンガルのうえ、多言語国家スイスで育ったため、ご本人は英・独・仏・伊語堪能。

……日本でその話をすると、みんないいなあって反応をするんだけれども、僕は正直言ってどの言語も完全にマスターしていないような、自分の言語アイデンティティがすごくあいまいな感じがしていた。自己分析すると、ひょっとしたら、だから日本語というものを、これは自分だけの言葉としてマスターしたいと思って、じぶんのものにしたい、習得したいと思ったところがあるかもしれないね。……「波」9月号

 日本語で作品を発表。今回も大阪弁を巧みに操る。
 ファブリはイタリア人、中央大学で日本語と貿易を学び、大手飲料メーカーはつの外国籍正社員となった。部署はワイン輸入部。イタリア出張の機内で横に座ったのが、吉田和泉(妻)一家3人。和泉さんと結婚して、4人の子どもに恵まれて……。

 極端に異なった環境で生まれ育って、かなり強烈な個性を持った二人が一緒になったらどうなるんだろうか。結婚生活のいろんな場面で、どう折り合いをつけるかということを、自分の家庭生活からヒントを得ながらのフィクションという形で書いてみたかったんだ。(「波」)

……
「Excuse us please」と声をかけ、ファブリが道をあけようと腰を上げたのを尻目に、二十代前半と見える日本人女性が窓際の席へすべり込んだ。
「エラいすんまへんな〜」
「エラい悪いな〜」
 あたまを下げたり手刀を切ったりしながら、彼女の両親と思しき二人が、腰を浮かせたままで動けずにいるファブリの前を通った。彼は肩をすくめた。通路側でもいいか。
「お母さん、買物は向こうでなんぼでもできるって言ったでしょう。もうぎりぎりやないの」
と窓際に座ったショートカットの女性が咎めるように言った。
「せやけど、いろいろ値段見とかんと、どっちが安いか比較でけへんやろう」
「とにかく、ああ勝手に行動されると困る。向こうで迷子になっても知らんで」
(母親、客室乗務員に注意される)
「ね、なんか言ってはりまんの」声をかけられた母親は娘を肘で突っついた。
「だから、お鎮したまま離陸したら危ないから飛ぶまで脚をくずしなさいって」
「そんなことしたら、足、届かへんわ」
 おチンとははじめて聞く日本語だった。ファブリは耳を欹(そばだ)てた。……
(ここに父親が加わる。トリオ漫才?)

 私、「おチン」は「おっちん」=幼児語と思っていた。「お鎮」とは知らなかった。「鎮座」? 「そばだてる」の漢字も。
 さて、担当クマキの不満。
「新刊案内」の紹介文に、
「……ロマンチストなイタリア人男性とせっかちでドライな大阪人女性……」とあって、彼女が言うには、
「いらちの大阪人はおっても、せっかちはおらん!」
 装画は杉田比呂美。
(平野)
 「神戸新聞」9.1夕刊、有川浩「イマドキつれづれ」
 書店回りをして、揺るぎない法則を発見。
「女性が元気なお店は売り場の勢いがある」

 写真は店内を走り回る【文芸】クマキ。