週刊 奥の院 8.31

今週のもっと奥まで〜
■ 草凪優 『君がやめてとねだるまで』 角川文庫 514円+税  
 角川文庫オリジナル官能シリーズ第1弾。すでに2弾、『君の中で果てるまで』(514円+税)も発売。やはり1冊目から紹介するのが礼儀(?)かな、と。
 佐内啓一46歳、妻の浮気現場を盗聴する生活。彼の前に長男・朋貴の家庭教師として梨乃出現。梨乃は、朋貴の引きこもりについて佐内夫妻の不仲に原因があると伝える。妻に負けずにオシャレして家庭のリーダーシップを取れと、派手なネクタイをプレゼントしてくれる。ある夜、彼女を送っていく途中。 

……
「ごめんなさい。わたし生意気なことを言ってしまいました」 

「いや、いいんだ……先生が言うとおり、うちの夫婦はいささかすきま風が吹いていてね。朋貴に悪影響を与えていることはわかってるんだ」
「そうじゃなくて……わたしはきっと、なにか口実をつけて佐内さんに贈り物をしたかっただけなんです。ピンクのネクタイだってわたしの好みだし、朋貴くんのためだなんて都合のいい言い訳して……」
 啓一は梨乃を見た。いまにも泣きだしそうに顔を歪めて、すがるような眼を向けてくる。わななく唇を噛みしめ、必死になって嗚咽をこらえている。抱きしめたい、という欲望を男に抱かせる態度だった。
「どうして、ボクにプレゼントなんて……」
「かまってほしかったから」
 梨乃は言い、苦りきった顔になった。自嘲気味な笑みが、つぶらな眼をした可愛らしい顔に大人びた色彩を与えた。
「ダメだなあ、わたしったら……昔から、ファザコンの気があったんです……ずっと年上の大人の男の人に……佐内さんみたいな人に弱いっていうか……」 
 啓一は言葉を返せなかった。にわかに現実感が奪われていった。ゴウゴウと唸る夜風に意識が嬲られ、まるでブラックホールにでも落ちてしまった気分になった。
 正面から吹きつけた突風が、梨乃をよろめかせた。 
 啓一が腕を伸ばして支えたのは、条件反射だった。梨乃の告白めいた言葉に衝撃を受け、茫然自失の状態にいたから、それ以外にはあり得ない。しかし、支えてしまったら離したくなくなった。それは自分の意思だった。腕の中で若々しい存在感を発揮する二十四歳の体を抱き寄せずにはいられなかった。本能が抱き寄せろと命じた。強風の中にもかかわらず漂ってくる甘酸っぱい若牝の匂いが、啓一の牡の部分を覚醒させた。
「佐内さん……」
……

 おじさん、メロメロ。
(平野)